ミケランジェリ DG&DECCA録音全集

カルロス・クライバーと並んで、レコーディングに対して極めて慎重であり、かつコンサートも満足のいく結果を遺せないと予見した場合は、
キャンセルだって辞さない完璧主義者。
それがイタリアの名ピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリです。

その主要な録音のほとんどはドイツ・グラモフォンに対して行われており、あとは若い頃のEMI録音がCD4枚程度。
セッション・レコーディングなんて、巷間の大部分のピアニストに比べれば、ほんのわずかな数しか遺していないという人です。
ただ、それに比べてライブ録音は、非正規盤などきわどいものを含め、ものすごい数がカタログ上に存在し、その点、指揮者のチェリビダッケやクライバーとどことなく似ています。

そんなミケランジェリのグラモフォン全録音、長らく廃盤であったデッカのベートーヴェンの32番ソナタとガルッピのソナタ、そして2009年発売のバレンボイムとのシューマンのピアノ協奏曲がカップリングされ、2017年に再登場したのは音楽ファンとして嬉しい限りです。

ちなみにミケランジェリは、非常に高名ではありますが。
ホロヴィッツのような悪魔的なテクニックと病的な音色を駆使することはなく、かと言ってリヒテルのような強靭な打鍵とリリシズムの対比が売りでもなく、グールドのようなエキセントリックな解釈で周りを驚かせるタイプでもなく、しかしきわめて音色の美しいところが最大の魅力のピアニストと言われています。

ただ、その音色の美しさたるや、尋常じゃないんですね。
彼のもっとも得意とするドビュッシーの前奏曲集なんか非常に冷たい。
若々しいベロフや雰囲気抜群のフランソワあたりとはかなり違う耳ざわり。
印象派というイメージを払拭し、絶対音楽としての音響美を重視し、ひたすらピアノという楽器が紡ぎだす音色の可能性を引き出していく。
ロマンティックな趣の強い第1集より、実験的な試みが多用されている第2集こそ、ミケランジェリの本領が出ている感じがします。

ドビュッシーだけじゃありません、他の演奏も本当にすごいです。
ショパンのバラードなんて、指のまわり方が普通じゃありませんし、シューベルトでは歌謡性とリズム、明晰な音色が甘美な音響世界をつくりあげ、
反対に協奏曲では妙に技巧をひけらかさず、堂々と正攻法で弾きこなしています。
(ちなみにモーツァルトで指揮をしているガーベンは本職の指揮者ではありません。ミケランジェリが信頼を置いていた腕利きのプロデューサーです。
いかにこのピアニストが芸術に対してナイーブであったかが分かります)。

で、個人的に面白かったのは、シューマンの謝肉祭。
若い頃の演奏のせいか、技巧の冴えにとどまらず、弾むような愉しさに満ちあふれ、このピアニストが冷たいだけでなく、豊かな叙情性を持っていたことに気づきます。

ピアノで聴きごたえのあるレコードをお探しの方には、お薦めのセットです。

 

Disc1
モーツァルト:
● ピアノ協奏曲第13番ハ長調 K.415(387b)
● ピアノ協奏曲第15番変ロ長調 K.450

北ドイツ放送交響楽団
コード・ガーベン(指揮)
録音:1990年1月,2月 ハンブルク(デジタル/ライヴ)

Disc2
モーツァルト:
● ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
● ピアノ協奏曲第25番ハ長調 K.503

北ドイツ放送交響楽団
コード・ガーベン(指揮)
録音:1989年6月 ブレーメン(デジタル/ライヴ)

Disc3
ベートーヴェン:
● ピアノ協奏曲第1番ハ長調 Op.15
● ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37

ウィーン交響楽団
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)
録音:1979年2月 ウィーン、ムジークフェラインザール(ステレオ/ライヴ)

Disc4
● ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 Op.73『皇帝』

ウィーン交響楽団
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)
録音:1979年2月 ウィーン、ムジークフェラインザール(ステレオ/ライヴ)

● ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調 Op.7

録音:1971年8月、ミュンヘン(ステレオ/セッション)

Disc5
● シューベルト:ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調 D.537

録音:1981年2月、ハンブルク(デジタル/セッション)

ショパン:
● マズルカ集(第45,34,47,49,48,22,20,19,25,51番)
● 前奏曲第25番 Op.45
● バラード第1番 Op.23
● スケルツォ第2番 Op.31

録音:1971年10月、ミュンヘン(ステレオ/セッション)

Disc6
シューマン:
● 謝肉祭 Op.9
● ウィーンの謝肉祭の道化 Op.26

録音:1957年3月、ロンドン(モノラル/セッション)

● ブラームス:4つのバラード Op.10

録音:1981年2月、ハンブルク(デジタル/セッション)

Disc7
● ドビュッシー:前奏曲集第1巻

録音:1978年6月、ハンブルク(ステレオ/セッション)

● ドビュッシー:子供の領分

録音:1971年7月、ミュンヘン(ステレオ/セッション)

Disc8
● ドビュッシー:前奏曲集第2巻

録音:1988年8月、ビーレフェルト(デジタル/セッション)

● ドビュッシー:『映像』第1集、第2集

録音:1971年7月、ミュンヘン(ステレオ/セッション)

Disc9
● シューマン:ピアノ協奏曲イ短調 Op54

パリ管弦楽団
ダニエル・バレンボイム(指揮)
録音:1984年10月、パリ(ステレオ/ライヴ)

● ドビュッシー:『映像』より(水に映る影/ラモーを讃えて/葉末を渡る鐘の音/金色の魚)

録音:1982年5月、パリ(ステレオ/ライヴ)

Disc10
● ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ハ短調 Op.111
● ガルッピ:ピアノ・ソナタ第5番ハ長調
● D.スカルラッティ:ピアノ・ソナタ集(K.11,159,322)

録音:1964年、ローマ(ステレオ/セッション)

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(ピアノ)

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