スコット・ロス スカルラッティ全集

早逝の天才が紡ぎ出した雅な世界

1980年代、チェンバロ演奏というニッチな領域において、ひとりの天才が彗星のように現れました。

その名はスコット・ロス(1951年3月1日 – 1989年6月13日)。

彼は一般的なコンサート・マナーに反し、ジーンズ履きに肩までとどく長髪といういでたちで登場。そのくせ非常に難解で前例も乏しいドメニコ・スカルラッティのソナタを暗譜で完璧に弾きこなすなど、かつてのグレン・グールドを彷彿とさせるようなインパクトで、瞬く間にその名を世界に知られるようになりました。

(↓ スコット・ロスはこんな感じの人です ↓)

ロスは、ものすごい勉強量と練習量でスカルラッティをマスターしたと言います。

そのドメニコ・スカルラッティは1685年にナポリで生まれ、1757年にマドリードで歿した、バロック期の偉大な作曲家のひとりです。オペラの作曲家として有名な父・アレッサンドロとは対照的に、チェンバロ独奏曲の分野に才能を開花させ、生涯に555曲ものソナタ(練習曲)を遺しています。

ロスは、その555曲を何と1984年~1985年のたった2年間で録音してしまいました。1日2曲~3曲のペースと言いますから超人的です。しかも、どの曲も手抜かりなく、それぞれの魅力を引き出しつつ、現代的に生き生きと弾いています。

ちなみにこれらの録音は、1980年代後半にNHK-FMで毎晩放送され、年配の日本のクラシックファンにはおなじみのものになっています。

それにしても、ロスも偉いですが、チェンバロみたいな技術的に制限のキツい楽器を以て、はしゃいでみたり沈んでみたり燃え上がったり、多彩な表情を音楽の中に盛り込んだスカルラッティの才能もすごいですね。555曲いっぺんに聴け!と言われたらさすがに抵抗がありますが、ちょっと流しっ放しにしていたら、あっという間に1-2時間聴いてしまいます。それだけ心休まる、そして魅力あふれる小曲たちです。

 

スカルラッティ:ソナタ(全555曲)

スコット・ロス(チェンバロ&オルガン)
モニカ・ハジェット、クリストフ・コワン、ミシェル・アンリ、マルク・ヴァロン(通奏低音)

録音時期:1984年6月~1985年9月
録音場所:ダッサス城礼拝堂、フランス放送スタジオ

 

ちなみにスカルラッティの曲。全555曲も要らないから、1枚もののアルバムで聴きたいという方は……。

スカルラッティ:ソナタ
①ホ長調 L.430
②イ長調 L.483
③ト長調 L.209
④ニ長調 L.424
⑤イ短調 L.241
⑥ヘ長調 L.188
⑦ヘ短調 L.118
⑧ト長調 L.349
⑨ニ長調 L.465
⑩ホ長調 L.21
⑪変ホ長調 L.203
⑫ホ短調 L.22
⑬ニ長調 L.164
⑭ヘ短調 L.187
⑮イ長調 L.391
⑯ホ長調 L.23
⑰ト長調 L.335

ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ)
録音:1962、1964、1968年 ニューヨーク

往年の巨匠、ホロヴィッツの代表盤です。よって、ピアノによる演奏です。チェンバロと違い、雅やかさは後退しますが、休止符やペダリングによって奥行きの深さが増し、かつホロヴィッツの驚異の指まわりとテンポ設定により、とてもスリリングな演奏が展開されています。スコット・ロスの演奏とは別の曲に聞こえてしまうほどです。

他にもギレリス、ハスキル、ブーニンの演奏も素晴らしいのですが、もし可能であれば、一度はスコアを眺めながらご自身で弾いてみられるのも一興かと思います。それだけ、音楽のたのしみというものが凝縮したような作品だと言えます。

 

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