フルトヴェングラーのベートーヴェン ~戦時録音集~(1)のつづき
フルトヴェングラー戦時録音集
Disc.1
・交響曲第3番変ホ長調 op.55『英雄』
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1944年12月19/20日
・『コリオラン』序曲 op.62
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1943年6月27/30日
・弦楽四重奏曲第13番から「カヴァティーナ」
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1940年10月15日
Disc.2
・交響曲第5番ハ短調 op.67『運命』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1943年6月27/30日
・交響曲第6番ヘ長調 op.68『田園』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1944年3月20/22日
Disc.3
・交響曲第4番変ロ長調 op.60
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1943年6月27/30日
・交響曲第7番イ長調 op.92
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1943年10月31日・11月3日
Disc.4
・交響曲第9番ニ短調 op.125『合唱』
ティルラ・ブリーム(S)
エリーザベト・ヘンゲン(A)
ペーター・アンダース(T)
ルドルフ・ヴァツケ(B)
ブルーノ・キッテル合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1942年3月22/24日
Disc.5
・ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61
エーリッヒ・レーン(Vn)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1944年1月9/12日
・『レオノーレ』序曲第3番 op.72a
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1944年6月2日
Disc.6
・ピアノ協奏曲第4番ト長調 op.58
コンラート・ハンゼン(Pf)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1943年10月31日・11月3日
ボーナス・トラック(Disc.5と6それぞれに収録):
・シューマン:チェロ協奏曲~最終楽章
ピエール・フルニエ(Vc)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1943年11月13/16日
・ブラームス:交響曲第1番~最終楽章
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1945年1月23日
・ブルックナー:交響曲第7番~アダージョ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1942年4月7日
・ベートーヴェン:交響曲第9番について
フルトヴェングラー(ドイツ語)2分38秒
録音:1954年8月22日
のちのEMI録音にも、フルトヴェングラーの歴史的名演奏は多いですが、この戦時中録音のセットにもすごい演奏がたくさん収められています。
先述のとおり、フルトヴェングラーの戦時中録音は、ナチス・ドイツが開発したマグネットフォンというテープ録音方式により収録されていますが、
マエストロ専属のレコーディング・エンジニア、フリードリヒ・シュナップ博士は、今でいうワンポイント録音により、フィルハーモニーに響きわたる輝かしい音響を、モノラルながら鮮明に記録することに成功しています。
それにしても、何という凄絶で緊迫感に満ちた演奏たちでしょう!
ウィーン・フィルとの「エロイカ」は、いわゆるウラニアの英雄と呼ばれるものですが、敗色濃厚の戦況下で死の影を感じさせる緊迫感がただことでなく、特に第2楽章がすごい。
ベルリン・フィルとの「第7交響曲」の第2楽章もそうですが、pで遅く重々しく始まり、続いておとずれる静寂には、闇の中に沈潜していくような怖さを感じます。
フルトヴェングラーは、フェルマータが付いていないところさえ息を吸うように伸ばし、意図的にほんの短い休止を挟んだり、強弱を極端にして緊迫感を高めていきますが、そうした技術があざとく聴こえるどころか。感動的でドラマティックに感じられるのは、ひとえにマエストロのベートーヴェンの音楽に対する深い共感のなせるわざでしょう。
「第4交響曲」も、序奏からものすごく遅い歩みと休止を駆使し、タメにタメた後、鬼のようなスピードとすさまじいクレシェンドで主部に突入していきます。終楽章もクライバーの快速とは違った、壮絶なアッチェレランド!
このほか、劇的で復帰演奏会の名演とはまた違った重苦しさの「運命」、冒頭から超絶スローテンポで、どこか悲壮感の漂う「田園」、手兵を率いてやりたいことをやりつくしたような壮絶な「第9」、そして黄金のフィルハーモニーにソリストの美音が輝かしく鳴り響く協奏曲。
まるで40年代にタイムスリップしたかのようん生々しい音質もあいまって、夢中になってすべてを聴き終わりました。
ところで、このBOXの白眉は、CD6に収められたブラームスかもしれません。
ベートーヴェンではなく、しかも第4楽章のみのこの演奏が?と首を傾げる方もいるかと思います。
でも、そうなんです。
当録音は1945年1月23日の演奏。翌月に巨匠はスイスに決死の亡命をします。
すなわち、これがナチス・ドイツ時代のベルリン・フィルとの最後の演奏になります。
当日は激しく空爆され、ドイツ帝国の終焉が刻々と迫っていることが伝わってきますが、そういう雰囲気を受けてか、ものすごい緊張感と迫力に満ちた演奏です。
極限の状況において、これ以上ない演奏を聴衆に示したすごい記録だと思います。全楽章残っていないのが誠に残念です。
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