カザルス 無伴奏チェロ組曲 全曲

無伴奏と言えば、やはりカザルス

20世紀最高のチェリストと言えば、必ず名前が挙がるカザルス。
でも、テクニックだけ言えば、後のロストロポーヴィチの方が格段に巧いですし、情熱の迸る演奏で言えば、ジャクリーヌ・デュプレの方が聴きごたえがあり、ハイクオリティな音質を優先するのならマイスキーあたりで聴くのが賢明です。

それでも、カザルスで音楽を聴きたいという人は数多くいます。
私もそうです、特にバッハの無伴奏チェロ組曲に関しては。今でもカザルスが一番です。

昔話になりますが、カザルスとの初めての出会いは1989年頃。
NHK-FMの日曜朝10時、そう、ちょうど吉田秀和さんの名物番組「名曲のたのしみ」の直後。
過去の偉大な巨匠を振り返る番組があり、そこでカザルスのほぼ全録音が紹介されていました。
私はこの番組でえらく粗削りで音量の大きいチェロの響きに圧倒され、ラジオに釘付け。そしてこの偉大なチェリストの指揮者としての録音にも、これまたKOされてしまったのです。

そんなカザルスが1930年代の後半に収録したバッハの無伴奏チェロ組曲全6曲。60代の脂の乗り切った彼が弾くチェロの音色はどことなく憂愁を帯びていて、かつ情熱的。
短調の2番と5番は、実に呼吸が深いというか、バロックの流儀に外れているかもしれませんが、音楽の本質である「魂に訴える」ことに真摯に取り組んだ稀有の演奏です。
逆に長調の曲の悠然とした足取りはどのように喩えたらよいでしょう!
デュナーミクを細かく動かしながら、もはや諧謔的と言ってもいいくらいユーモラスな表情を見せたかと思うと、すごく雄弁な弓づかいで難しいパッセージをやすやすと弾きこなしていく。ためしに、第3番をぜひ聴いてみてください。何度で繰り返し聴いても飽きることのない偉大な曲であり、演奏です。

カザルスのバッハ 無伴奏チェロ組曲
Disc1
J.S.バッハ:
・無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV.1007(録音:1938-6)
・無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調 BWV.1008(録音:1936-11)
・無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV.1009(録音:1936-11)
Disc2
・無伴奏チェロ組曲第4番変ホ長調 BWV.1010(録音:1939-6)
・無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調 BWV.1011(録音:1939-6)
・無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調 BWV.1012(録音:1938-6)

 

カザルスの無伴奏はレコード探しの旅

ところで、この無伴奏全曲を収めているCDはたくさんあって、どれが一番良い音質なのか?そこが重要であり、またクラシック音楽を趣味とするうえでの無二の愉しさでもあります。

まず、私が持っているのは東芝EMIから1994年に発売されたもの。

1994年に発売され、現在カタログに載っているのは中古のようですが、とにかく解説が充実しています。吉田秀和さんの素敵な語り口が楽しめるだけでも、これは価値が高いCDと思います。あと、本家EMIの録音は世間からあまり芳しい評価が得られず、このカザルス盤もよく批判の矢面に立たされたりしますが、私はこのごつごつした粗削りな音色にむしろ魅力を感じます。

一般的に入手しやすいディスクです。初めて聴かれる方はこのCDで十分だと思います。ただ、マスタリングのせいか、94年盤に比べて荒々しさが後退し、少し成分が削げ落ちているような気もします。

2003年にオーパス蔵というレーベルにより復刻されたCDです。このサイトを覗きに来られた方ならばおなじみでしょう。
とにかくカザルスのチェロの音が非常に生々しく再生されています。パチパチノイズは盛大なものですが、余計な音を削っていない分、弓が弦に触れ、胴に共鳴して朗々と響くさまがきれいにとらえられています。旧EMIのあのがつんとした響きはないのですが、昔のSPの音を知っているファンは、これをベストに推す傾向があるようです。ただし、オーパス蔵の少し音圧の強めな感じが苦手な方は、最近出たSACDの方がいいかもしれません。

あまり書きすぎると皆さんをディープなコレクターの世界にお招きしかねないので、この辺にしておきます(笑)

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