5月の試聴室 サロネンのトゥランガリラ交響曲

サロネンのトゥランガリラ?何のこっちゃ?

クラシックカテゴリ以外から来られた方はおそらくそう思われるでしょう。

先月から、月末はBOX以外の単品CDを取り上げると宣言していましたが、今月のネタがこれ。

クラシック音楽の中でも特に難解とされる現代音楽のうち、特徴的な名前を持つこの曲を取り上げることにしました。

トゥランガリラ交響曲は、戦後間もない1946年から1948年にかけて、フランスの現代音楽の大家、オリヴィエ・メシアン(1908年 – 1992年)によって作曲された、演奏時間90分の大曲です。

メシアンは1992年に没していますから、私が学生の頃はまだ存命でしたし、彼の新作も続々とリリースされていたので、ベートーヴェンやワーグナーと違って、リアルタイムを生きる作曲家だった、と言えます。

例えば、もう中古品しか出回っていませんが、メシアンのオペラ「アッシジの聖フランチェスコ」が完成したのは1983年。小澤征爾とパリ・オペラ座による世界初録音のCDがリリースされたのは1988年(当年のレコード・アカデミー賞を受賞しています)。ほんの最近の出来事です。

80年代まではメシアンや武満徹、ブーレーズ、シュトックハウゼン、アイヴズ、それからバーンスタインといった面々の作品がレコード芸術など音楽メディアを賑わせていたのです。

さて、そんな身近な作曲家であったメシアンですが、彼の代表作と言えば、多くの方が「トゥランガリラ交響曲」を挙げるでしょう。この曲は、NHK-Eテレの過去の看板番組「N響アワー」のオープニング音楽にも使用され、かつ古くから多くの録音が行われるなど、現代作品の中ではわりとポピュラーな部類に入ります。

表題の「トゥーランガリラ」ですが、2つのサンスクリット、“turanga”と“lîla”から成り、バッサリと直訳するに適した語はありませんが、wikipediaを見ますと、「愛の歌」や「喜びの聖歌」、もしくは「時間」、「運動」、「リズム」、「生命」、「死」などの意味があると書いてあります。

曲は10の楽章から成り、通常のオーケストラに8人の打楽器奏者、グロッケンシュピール、ピアノ、そしてこの曲の大きな特徴でもあるのですが、電子楽器「オンド・マルトノ」が加わります。

「オンド・マルトノ」は、現代音楽の作曲家に大変好まれ、NHKの大河ドラマの主題曲でも、池辺晋一郎先生がよく使っていましたね。最も有名なのが「独眼竜政宗」(1987年;渡辺謙主演)のオープニング曲でしょう。「オンド・マルトノ」が派手に使われています。

話が逸れましたが、かなり有名になったこの楽器も、奏者自体はまだ少ないのが現状です(メシアンの故郷・フランスでは、パリ音楽院に「オンド・マルトノ科」が設立されているそうですが)。
ただし、名手としてジャンヌ・ロリオ、そしてわが日本が誇る原田節さんがいます。私も原田さんが奏するトゥランガリラは実演でも録音でも相当な回数を聴いています。特にN響との競演は2回聴いていて、2008年の準メルクル指揮のもの、1988年のエサ・ペッカ・サロネンによるもの。どちらもすごかった。どちらを取るかと言えば、非常に難しいのですが、サロネンでしょうか。やはり、ファーストインパクトの強烈さですね。

サロネンは1958年にフィンランドで生まれた指揮者。早くからベルリン・フィルの指揮台に登り、ロス・フィルの音楽監督やフィルハーモニア管弦楽団の首席指揮者を歴任。作曲家としても活躍し、前衛的な作品を発表しています。N響との共演時はなんと30歳ジャスト。現代音楽を自ら手掛けるだけに、この難曲をバランスよく、またオンド・マルトノの官能的かつ威圧的な音色を非常に際立たせて演奏しているのが印象的でした。まあ、原田さんの卓越した技能があってのものでしょうね。

そんなサロネン。トゥランガリラ交響曲の録音も行っています。何と1985年、20代の録音です。オケは後のパートナー、フィルハーモニア管弦楽団でピアノは名手、ポール・クロスリー!ところが、オンド・マルトノが残念ながら原田さんではない。トリスタン・ミュラーユという人です。

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

 

【演奏】
フィルハーモニア管弦楽団
ポール・クロスリー(ピアノ)
トリスタン・ミュレイル(オンド・マルトノ)
指揮 エサ=ペッカ・サロネン

【録音】
1985年11月10日~14日、ロンドン・アビー・ロード・スタジオ

 

まあこれで原田さんだったらベストだったんですが、ミュラーユもなかなか落ち着いた演奏で魅力的な音を出していますよ。そしてピアノのクロスリーは本当に指が回るし、この曲の多面的な表情をモザイク状に放散する特徴をうまく再現している。そして、彼らと大規模なオケを若干28歳の若造が実に冷静に統率し、入念に彫琢するように表現していく指揮ぶりが絶賛ものです。

そしてこういう曲を収録する上で最も重要な録音のクオリティも言うことありません。

なかなか店頭では探し出すことは難しいCDですが、見つけられたら即買いをお勧めします。

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