クラウス・テンシュテット EMI録音ボックス(2)

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堅牢かつ熱狂にも不足しないベートーヴェン

 

このボックスには、ベートーヴェンの「英雄」、「田園」、「第8」の3つの交響曲、それに序曲集が収められています。オーケストラはロンドン・フィルハーモニーです。

それにしても、何と堂々とした熱気あふれる演奏なのでしょう!

例えば「英雄」。この指揮者がたまに聴かせる、やや恣意的で勢いに任せるような箇所はありません。スコアや慣例を重視し、堅牢でびくともしないようなスケール感を打ち出しています。それでいて、冷たい機械的演奏ではなく、オーケストラから奏者の息遣いを引き出したような演奏になっているので、聴後にとても快さが残ります。また、「田園」も何度聴いても素晴らしく、まさに自然の中に身を浸すような安定感で、これはテンシュテットの数ある録音の中でも最良の仕事と評していいかもしれません。

続いて、ブラームスの第1交響曲も煽情的なスタイルではなく、あくまでオーソドックスな演奏です。ただし、最後の最後、4楽章コーダのティンパニの激しい打ち込みに至ってはテンシュテットらしさ満載で、こういうところがこの指揮者の面白さだと思います。

ユニークなのはブルックナーでしょう。

以前、このブログでチェリビダッケのブルックナーを取り上げましたが、この演奏はチェリのスタイルと真逆と言っていいかもしれません。第4番は何とベルリン・フィルとの演奏です。素晴らしく鳴る演奏で、内面的に深化するよりは外への放射を志向しています。第3楽章のアッチェレランド気味のテンポ設定、フィナーレの管楽器軍の惚れ惚れとするような美しさ。まさに「ロマンティック」と形容したい名演です。

マーラーの「巨人」はもはや言うことがないでしょう。パートナーはシカゴ交響楽団。あのテンシュテットがアメリカ屈指のヴィルトゥオーゾ・オケを振った際の記録!ということで、発売当初、大変な評判になったものです。とにかくエネルギッシュで、金管の燃え上がるようなラストの追い込みなど尋常ではない熱狂の世界が繰り広げられます。何度も聴いていると疲れますが、私たちがテンシュテットに求めるものすべて詰まっています。

このほか、シューマンやリヒャルト・シュトラウス、メンデルスゾーンなど名演奏目白押しなのですが、紙面が残り少ないので、ワーグナーについて取り上げようと思います。

このワーグナーは分売もされていますので、それだけ購入されてもよろしいでしょう。オーケストラはベルリン・フィルハーモニー。1枚目は長大な「ニーベルングの指環」からの管弦楽曲集、2枚目が序曲集です。

やはりベルリン・フィルのアンサンブルというのはものすごいです。特にこの録音が行われた1980年代初頭は、各奏者たちが円熟期を迎え、かつ若い才能たちがカラヤンによって次々と見出される時期に当たります。それだけに、弱音の美しさからマッシブな全強奏まで、このオーケストラの表現力とソロの巧さには感服します。

「ローエングリン第1幕への前奏曲」の壊れそうなくらい繊細な弦楽アンサンブル、「ワルキューレの騎行」の重厚な低音のうねり、「マイスタージンガー前奏曲」のこれぞドイツ・ロマン派!っと喝采したくなるような盛り上がり。本当に本当に素晴らしいです。

残念ながら、EMIの録音がいまいちこの名演奏の凄みをスポイルしているのですが、それでも十分に感動を呼び起こす素晴らしいBOXと言えるでしょう。

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