古楽器ブーム全盛期に生まれた味わい深い名盤集
Disc 01
ベートーヴェン
序曲集
1 序曲『コリオラン』ハ短調 Op.62
2 劇音楽『アテネの廃墟』 Op. 113~序曲
3 劇音楽『シュテファン王』Op. 117~序曲
4序曲『レオノーレ』第2番 Op. 72a
5 歌劇『フィデリオ』Op. 72~序曲
6 劇音楽『エグモント』 Op. 84~序曲*
7 プロメテウスの創造物 Op. 43~序曲*
8 付随音楽『献堂式』Op. 124~序曲
指揮:ロイ・グッドマン / モニカ・ハジェット*
録音:1983年-1988年
Disc 02
ベートーヴェン
交響曲第1番 ハ長調 op.21
交響曲第2番 ニ長調 op.36
指揮:モニカ・ハジェット
録音:1番/1982年 2番/1983年
Disc 03
ベートーヴェン
交響曲第3番 変ホ長調 op.55 ‘英雄’
交響曲第4番 変ロ長調 op.60
指揮:ロイ・グッドマン
録音:3番/1987年 4番/1988年
Disc 04
ベートーヴェン
交響曲第5番 ハ短調 op.67*
交響曲第6番 ヘ長調 op.68 ‘田園’
指揮:モニカ・ハジェット*/ロイ・グッドマン
録音:5番/1983年 6番/1987年
Disc 05
ベートーヴェン
交響曲第7番 イ長調 op.92
交響曲第8番 ヘ長調 op.93
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1988年
Disc 06
ベートーヴェン
交響曲第9番 ニ短調 op.125 ‘合唱’
エイドェン・ハーヒー(ソプラノ)、ジーン・ベイリー(アルト)
アンドルー・マーゲイトロイド(テノール)、マイケル・ジョーン(バス)
オスロ大聖堂聖歌隊
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1988年
Disc 07
モーツァルト
交響曲第40番 ト短調 K.550
バセット・クラリネット協奏曲 イ長調 K. 622
アイネ・クライネ・ナハトムジーク K. 525
コリン・ローソン(バセット・クラリネット)
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1990年
Disc 08
モーツァルト
交響曲第41番 ハ長調 K.551 ‘ジュピター’
ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
セレナータ・ノットゥルナ ニ長調 K.239
クリストファー・カイト(フォルテ・ピアノ)
指揮:ロイ・グッドマン
録音:第41番/1988年 K.466 & K.239 1990年
Disc 09
シューベルト
交響曲第1番 ニ長調 D. 82
交響曲第2番 変ロ長調 D. 125
指揮:ロイ・グッドマン
録音:第1番/1988年 第2番/1990年
Disc 10
シューベルト
交響曲第8番 ロ短調 (‘未完成’), D. 759
交響曲第5番 変ロ長調 D. 485
交響曲第3番 ニ長調 D. 200
指揮:ロイ・グッドマン
録音:第8番/1990年 第5番/1988年 第3番/1989年
Disc 11
シューベルト
交響曲第4番 ハ短調 D.417 ‘悲劇的’
交響曲第6番 ハ長調 D. 589 ‘小 ハ長調’
指揮:ロイ・グッドマン
録音:第4番/1988年 第6番/1989年
Disc 12
シューベルト
交響曲第9番 ハ長調 D.944 ‘ザ・グレート’
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1989年
Disc 13
メンデルスゾーン
交響曲第3番 イ短調 ‘スコットランド’ Op. 56
序曲『フィンガルの洞窟』 Op.26
序曲『静かな海と楽しい航海』 Op. 27
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1990年
Disc 14
メンデルスゾーン
交響曲第4番 イ長調 ‘イタリア’ Op. 90
ピアノ協奏曲第1番 ト短調 Op. 25
ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op. 64
クリストファー・カイト(フォルテ・ピアノ)
ベンジャミン・ハドソン(ヴァイオリン)
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1988年
Disc 15
ハイドン
ホルン協奏曲第1番 ニ長調
ホルン協奏曲 ニ長調
交響曲第31番 ニ長調 ‘ホルン信号’
アンソニー・ホールステッド(ホルン)
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1989年
Disc 16
ハイドン
交響曲第94番 ト長調 ’驚愕’
交響曲第95番 ハ短調
レオポルト・モーツァルト
おもちゃの交響曲 ト長調
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1987年
Disc 17
ハイドン
交響曲第104番 ニ長調 ‘ロンドン’
交響曲第100番 ト長調 ’軍隊’
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1987年
Disc 18
ウェーバー
1. 序曲『オイリアンテ』
2. 序曲『オベロン』
3. 序曲『魔弾の射手』
4. 序曲『幽霊の支配者』
5. 舞踏への勧誘 (管弦楽版編曲. ベルリオーズ)
6. 序曲『アブ・ハッサン』
7. 序曲『ペーター・シュモルとその隣人たち』
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1988年
Disc 19
ウェーバー
交響曲第1番 ハ長調
ホルン小協奏曲 ホ短調
交響曲第2番 ハ長調
アンソニー・ホールステッド(ホルン)
指揮:ロイ・グッドマン
録音:1989年
ベートーヴェンとシューベルトは特筆すべき出来栄え
かつてのクラシック音楽ファンにとって、古典派音楽演奏の権威と言えば、ブルーノ・ヴァルターやオットー・クレンペラー、カール・ベームでした。
その牙城を1980年代になって崩したのが、作曲者が生きていた18世紀当時の楽器を復刻し、小編成のオーケストラでそれまで聴いたことがないようなフレッシュなサウンドを展開。世間に衝撃を与えた、フランス・ブリュッヘン、クリストファー・ホグウッド、ニコラウス・アーノンクールたちでした。彼らの演奏は瞬く間にベームらの演奏を博物館送りにし(というムーヴメントをメディアが作り出しました)、「古楽器にあらずんば古典派演奏にあらず」という過激な風潮を既成事実化していったのです。
それが1990年になると、レコード会社(アルヒーフ・レーベル)の強力なバックアップと宣伝効果が功を奏し、穏健な立ち位置であったジョン・エリオット・ガーディナーの古楽器演奏が盟主的存在となります。ガーディナーは恐るべき知識量と学術成果を駆使し、新時代のバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの決定的な演奏スタイルを確立。過激さに依らない、成熟した古典派音楽の解釈により、ようやく古楽器スタイルは聴衆の支持を得るようになったのです。
そして、ガーディナーがレハールやストラヴィンスキーなど近代音楽に進出したのと並行し、当時の大指揮者、クラウディオ・アバドやサイモン・ラトルがピリオド・アプローチを採り入れたベートーヴェン演奏に取り組む、という逆転現象を生み出しました。
そんな時代にあって、「俺達が時代を変える!」という野心を剥き出すことなく、ただひたすらに古楽器の素朴な響きを愛し、気の合う仲間たちと演奏を楽しむグループがいました。それがハノーヴァー・バンドです。
この名前を聞いて、多くの方が「誰?」と思い、少数の方が「ああ、懐かしい!」と思ったことでしょう。
彼らは1980年、イギリスで結成した古楽器オーケストラです。世界各地への演奏旅行で着実にキャリアを重ね、レパートリーを拡大。1988年には何と世界初の古楽器によるベートーヴェンの交響曲全集リリースという偉業を成し遂げています。
ハノーヴァー・バンド/ベートーヴェン:交響曲全集(タワーレコード・オンラインに移動)
これは、カラヤンもバーンスタインも存命だった当時において、衝撃的な出来事だったと言えるでしょう。大人数のオーケストラがベートーヴェンを物々しく演奏するのが当たり前な時代。一方、古楽演奏は勢いはあるものの、まだまだ色物扱いされており、全集のリリースには相当慎重な指揮者ばかりでした。
そうした中、彼らはこの前人未到のチャレンジを敢行し、演奏史に名を刻むのです。
とは言え、この偉業について知っている人は非常に少ないかもしれません。むしろ私の記事を読んで、「えっ?、アーノンクールとかブリュッヘンじゃないの?」と思われた方のほうが多い、と思います。
それは、この全集が「ニンバス」という英国のインディ・レーベルから発売されたことが大きいかもしれません。ネットがない当時、最大の情報媒体である「レコード芸術」誌がこの全集に注目せず、また月評がこの演奏に対してきわめて辛口であったことも、黙殺されるに十分な要因になりました(さらに1988年当時、ドイツ・グラモフォンが次世代の看板であるクラウディオ・アバドとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の組み合わせによるベートーヴェンの交響曲全集を進行中であったことも不運と言えます)。
たしかに今日、ハノーヴァー・バンドによるベートーヴェンを聴くと、風格に乏しく、巨匠らに匹敵する個性を見出すのは難しいかもしれません。しかし、「第9」の終楽章コーダに顕著なように、21世紀に主流となるベーレンライター版の音型が早くも取り入れられており、現代の私たちにとっても新鮮に、面白い発見をしながら聴くことができます。
さらに、「第3」「第4」「第6」は、演奏自体がとても優れています。推進力に満ち、リズム感に富み、古楽器特有の透明感あふれる響きがとても心地よいです。この全集は、ロイ・グッドマンとモニカ・ハジェットの2人が指揮を担当していますが、どちらかというとグッドマンの方が巧くまとめている、聴かせどころをよく心得ていると思います。
同様に、全集となったシューベルトの交響曲演奏も面白い。「グレイト」など、冒頭から特徴的なホルンの吹かせ方で、他に聴いたことがなく、おそらく彼らの何らかの研究成果によるものと思います。その後は小気味よいテンポで進み、この曲の演奏にありがちなドイツ精神の権化のような雰囲気は一切、削ぎ落されています。極めて現代的な演奏と言えるでしょう。
さらに聴きものは「未完成」。小編成オケながらドラマティックな演奏で、それでいてアーティキュレーションは特徴的。例えば第1楽章の赤線の箇所は、大見得を切るようにクレシェンドする指揮者が多い中、デクレシェンドしています。これはかなりインパクトがあり、校訂版を用いたアバド盤とも異なるユニークな試みです。次の第2楽章は早目なテンポながら迫力に満ち、多少粗削りな部分も散見されますが、団員のひたむきな熱狂が感じられ、聴いていてこちらまで熱くなります。
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他にもモーツァルトやハイドンの音楽など面白いものが多数含まれており、これらをまとめて休日に楽しむのも最高の贅沢ではないかと思います。ただし、マイナーなBOXでもあり、市場から消えるリスクもあるので、お早めにお買い求めになられることをお勧めします。