ブロムシュテット R.シュトラウス : 管弦楽曲集

堅実でノーブルなシュトラウス・サウンドに酔う

R.シュトラウス: 管弦楽曲集(英雄の生涯、ツァラトゥストラはかく語りき、ドン・ファン、ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら、変容、死と変容)(2022年ORTマスタリング)<タワーレコード限定>

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R. シュトラウス:
DISC 01
1. 交響詩《英雄の生涯》 作品40

DISC 02
2. 交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》作品 30
3. 交響詩《ドン・ファン》作品 20

DISC 03
4. 交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》作品28
5. 23の独奏弦楽器のためのメタモルフォーゼン Av.142
6. 交響詩《死と変容》作品24

管弦楽:ドレスデン・シュターツカペレ
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

【録音】1984年9月10日-14日(1)、1987年6月22-26日(2,3)、1989年2月5-9日(4-6)
ドレスデン、ルカ教会
1987年8月16日、ベルリン、シャウシュピールハウス(2 – organ synchronization)

 

日本でも大変なじみが深いスウェーデン生まれの名指揮者、ヘルベルト・ブロムシュテットは、2022年現在で御年95歳。今だ現役バリバリで、ステージに立ち続けています。

これは驚くべきことで、かつてギュンター・ヴァント(1912年 – 2002年)が90歳まで活躍して音楽ファンを大変驚かせましたが、ブロムシュテットはそれすら大きく凌駕しています。しかも、立ち姿なんて今もって全然若々しい!

これには、彼が極度にストイックな菜食主義者であることも関係しているかもしれません。

こんなエピソードがあります。かつてブロムシュテットがNHK交響楽団に客演した際、事務局は昼食に蕎麦を出しましたが、彼は蕎麦つゆが鰹を出汁にしたものであると知り、麺のみを食べたといいます。

それくらいの徹底ぶりなので、おそらく身体のケアに関するこだわりは尋常ではないのでしょう。

そんなブロムシュテットですが、反面、これだけ長い時代をマエストロとして過ごしながら、いわゆるスター指揮者、アバドだとかムーティだとかマゼールなんかに比べると、ものすごく地味な存在に甘んじてきた気がします。

同じように地味系で知られるハイティンクやコリン・デイヴィスに比べても、その日の当たり方は弱い。

その一つの要因として、彼が壮年期の1975年から1985年まで東ドイツのシュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者の地位にあり、いわゆるメジャー・レーベルとの契約を得られなかったこともあるかもしれません。

ただし、日本においては彼のような東独に基盤を置く指揮者がたいへん好まれ(コンヴィチュニーやスイトナー、ケーゲル等)、またブロムシュテットが1981年の初共演以来、NHK交響楽団の常連だったこともあって、彼の名声はきわめて底強く維持されてきた、と言って良いでしょう。

先述のベートーヴェンも昔から名盤の誉れ高いものです。

特にこれと言った斬新さやロマン性はないのですが、堅実に楽譜を再現し、シャープで引き締まった音運びの中に名門オーケストラのどっしりとした響きが鳴り響くという、極めて理想的な音楽が展開されています。

残念ながら、発売当初にこの全集が音楽ファンの大きな注目を集めることはありませんでしたが、この全集を聴いたか聴かなかったのか、ブロムシュテットの優れた統率能力と音楽性に、いち早く目を付けたのが日本のデンオンでした。

グラモフォンやEMIなどがカラヤンやホロヴィッツなどを看板に優位に市場を席巻する中、後発の、しかもクラシック後進国の日本に籍を置くデンオンが当時取った戦略は、メジャーが手を出さない東ヨーロッパ(ソ連を取り巻く衛星国)の優れたアーティストを発掘、契約し、日本のお家芸であったテクノロジーの力をフルに発揮して、いわゆる優秀録音盤を世に送り出す、と言うもの。

例えば、世界で最初にPCM録音を採用し、スメタナ四重奏団とモーツァルトを収録したのはデンオンでした。

また、当時無名に近かったエリアフ・インバルとフランクフルト放送交響楽団を起用し、ワンポイント録音によるマーラー「交響曲全集」を完成、マーラー・ブームの火付けを行うとともに、このコンビの名声を世界的なものにしたのも、当時のデンオンの大功績だったと言えます。

そんなデンオンが、地味なブロムシュテットとシュターツカペレ・ドレスデンのコンビを起用し、ブルックナーやリヒャルト・シュトラウスの作品集で大きな成功をおさめたのはまさしく慧眼でした。

当時はとりわけオーディオ雑誌で専門家がその素晴らしいサウンドの再現力に狂喜乱舞したものです。

ブルックナーの4番など、カペレのさざ波のような弦の満ち引きと管楽器の輝かしいサウンドが見事に眼前に広がるようで、会場となったルカ教会の美しい残響にも惚れ惚れしてしまいます。

一方のリヒャルト・シュトラウスは、丁度同時期にカラヤンとベルリン・フィルハーモニーの天下の名盤群が立て続けにリリースされていた時期に重なり、いわゆる競合と相成りました(さらに、アンドレ・プレヴィンとウィーン・フィルハーモニーによるシリーズも進行していました)。

しかし、ブロムシュテット盤の演奏・録音クオリティはそれら競合盤に全く負けていません。

まず「英雄の生涯」。1984年の録音で、始まるやいなや、惚れ惚れとするサウンドが眼前に広がるのがたまりません。ティンパニが柔らかくて実にイイですね。嫌味がなく、包まれるような感覚。

戦闘のシーンも、重戦車の進軍のように威力たっぷりの演出を見せつけるカラヤン盤に対し、ブロムシュテット盤ははるかに純音楽的で、それがかえってシュトラウスの巧妙なオーケストレーションを明確にし、ラストまでの技巧的なみごとさを引き立てることに成功しています。

この作品のけばけばしい演出がイヤで聴かなくなった方には、ぜひご一聴をお勧めしたい一枚です。

続いて「ツァラトゥストラ」。有名な冒頭は、「英雄の生涯」の時と打って変わって、シワジワ盛り上げるような自在なテンポ・ルバートを駆使し、荒々しいほどドラマティックな表現に仕上がっています。ちょっと意外ですね。

その後の8つの曲も極めて丁寧に、雄弁に語るべき箇所はカペレのサウンドをここぞとばかりに発揮して、最後まで飽きさせることがありません。この曲は不名誉にも「出オチ」と見做されて有名(?)ですが、実は様々な動機や技法が記号化され、哲学を音楽で表現するという離れ業に成功した、凄い技巧曲なのです。ブロムシュテットは映画で有名になりすぎたこの曲の真価をもう一度洗い出し、堅実に丁寧にスコアを再現しています。

この他、カペレの弦楽器の素晴らしい純度と厚みに魅了される「メタモルフォーゼン」、圧倒的なサウンドながら踏み外さず、じっくりと曲に向き合った「ドン・ファン」&「ティル」、静謐で沈潜する思索的な「死と変容」と、どれも素晴らしい音楽と音質です。一時代を築いたコンビとデンオン・サウンドを改めてご堪能ください。

 

【追記】ブロムシュテットは1985年にカペレを退任後、サンフランシスコ交響楽団の音楽監督に就任。90年代に再びシュトラウス作品に挑戦しています。オーケストラの魅力は旧盤に劣りますが、音楽との向き合い方はさらに真面目になり、他にないタイプの堅実な演奏になっています。

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