9月の試聴室 21世紀のクライバー マンフレート・ホーネック

投稿者: | 9月 21, 2025

エピゴーネンから真の巨匠へ 

ある日、YouTubeを見ていて驚愕しました。

あのレパートリーが狭い20世紀の大指揮者、カルロス・クライバーがチャイコフスキーを振っている!

私はクライバーの大ファンで、彼が振ったコンサート映像はほぼ見尽くしたつもりであったのに、これは初見の映像。いや、それどころか、クライバーがチャイコフスキーを振った情報なんて聞いたこともない。これはなんだ!

理由はなんてことありません。それは容貌、指揮姿がクライバーに非常によく似ている、マンフレート・ホーネックというウィーン出身の指揮者の映像だったのです。

とはいえ、これは私の見間違いという話に止まらず、実際にホーネックはクライバーを崇敬しているようで、指揮台でのエネルギッシュな動き、グルグルと腕を回し、音楽に合わせてダンスのような仕草を見せるところなど、まさにクライバー!

さらに、最近では白髪になり、ウィーンっ子らしい高貴な顔立ちもあって、クライバーと見間違うような見た目になりつつあります。これはすごいことです。

そんなホーネックですが、以前はクライバーを真似している怪しからん奴みたいな悪口を言われたりしていました。また、彼の主な活躍の場がピッツバーグ交響楽団であったこともあり、メジャーからはやや遠い位置での活動が続いていました。

それでも、ホーネックの類まれな才能と地道な努力は、彼を徐々にスターダムにのし上げていきます。

そもそも彼は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に所属し、ヴィオラを弾いていました。しかも弟は、現在コンサートマスターを務めるヴァイオリン奏者、ライナー・ホーネック。そう、彼は筋金入りの音楽エリートなのです。

さらに名門ウィーン・フィルでのヴィオラ奏者時代、ホーネックは20世紀の巨匠たちの残照をしっかりと、その目に焼き付けていました。ひとことで巨匠たちと言っても。それはカラヤン、バーンスタイン、ショルティ、ジュリーニなど、伝説級のビッグネームだったりします。もちろんクライバーもいたはずで、彼らから得られた音楽的財産ははかりしれません。さらに、ホーネックがウィーン・フィルを退団し、まだ駆け出し指揮者であった頃には、あのアバドの指導を受けていたそうです。

昨今の彼の演奏を聴いていると、そうした昔の巨匠の影響が所々に見えます。それでいて懐古的な音楽に停滞せず、ピリオド・アプローチやスタイリッシュな造形など、昨今の若い演奏家たちと同様のスタイルも備えており、それらの要素がようやく円熟という形で彼の音楽性を形作るようになっているように思います。

Wiener Symphoniker Plays Strauss Walzes

ホ―ネックと言えば、まずシュトラウス・ファミリーの演奏を挙げたいです。それこそ「雷鳴と電光」はクライバー張り。目まぐるしいスピード感や演出効果抜群のデュナミークなど、聴く者を興奮に誘い込みます。

一方で、「オーストリアの村つばめ」、「春の声」などは、クライバーのニューイヤーコンサートの演奏スタイルに比べると、かなり違って聴こえます。どことなく、あの偉大なウィーンの巨匠、クレメンス・クラウスの、ノスタルジックに陥らない颯爽とした高貴な演奏を想起させます。

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ウィーンの演奏家には、生まれ持った独特の音楽観があると言います。3拍子もイタリア・オペラなら「ブン・チャッチャ」ですが、ウィンナ・ワルツであれば2拍子目をやや引き延ばす傾向がある。他にも、主題を歌う前に独特のタメやテンポ・ルバートをかけるなど、自然な呼吸のようなパターンを持っています(常にではありませんが)。

ホ―ネックの演奏には、まさにこうしたウィーンの血を感じます。さらに驚くべきは、彼が指揮棒を振れば、ウィーン交響楽団やMDR交響楽団、果てはアメリカのピッツバーグ交響楽団でさえ、ウィーン・フィルのようなサウンドを発するところです。ウィーン・フィルを聴き慣れれば、他のオケによるウィンナ・ワルツはかなり違和感を感じたりしますが、それを覆すホ―ネックの能力は凄いと思います。

そんなホ―ネックが、さらに円熟の境地を示したのが、この2021年にリリースされたブラームス「4番」です。第1楽章冒頭は、いきなり深い詠嘆のルバートで始まりますが、これはフルトヴェングラーを意識したものなのか。また、ロマンティックな第1主題の進行に対し、三連音の動機の厳しさとダイナミックの対比は目を見張るほどハッキリしています。

続く第2楽章は特筆すべき素晴らしさです。ここまで充実して聴きごたえのある第2楽章の演奏は初めて聴きました。第1主題をヴァイオリン群が美しく奏で、第2主題をチェロが静謐に弾き、やがて朗々としたホルン主題に回帰するまでが、オーケストラサウンドの極致と言って良いほど、美しいのです。

第2楽章の第1主題

第3楽章もきびきびと速く、猪突猛進の第1主題と軽快な第2主題が見事にシンクロし、一つの自然な流れを作っています。

第4楽章は、冒頭がかなり癖のある感じです。デュナーミク、アーティキュレーションに工夫を凝らし、ドラマティックというより、この楽章のシステマティックな面をことさらに強調している感があります。

それが、妖しく死の世界を感じさせるフルートソロの登場で雰囲気が一変。はたまたクラリネット→トロンボーンが天上の音楽を奏でて悲劇を否定し、さらに激しい第1主題が戻って救済を打ち消すという、ベートーヴェンの「第9」のパロディみたいな展開をするあたり、ホ―ネックは見事に聴かせてくれます。

第4楽章のフルート・ソロ部分

さらにコーダの激情の奔流のようなダイナミックと加速はまるで地獄堕ちの音楽のようで、一つのドラマを堪能したような聴後感を味わえました。それにしても、このピッツバーグ交響楽団は恐ろしく巧いオケで、その技術を十分に引き出したホ―ネックは凄いとしか言いようがありません。

まだまだホ―ネックは現役バリバリです。残念ながら来日数が少ないのですが、目が離せない指揮者として、今後も追っていこうと思います。

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