『ニーベルングの指環』全曲 ティーレマン&バイロイト(2008年ライヴ)

21世紀の巨匠 ティーレマンの素晴らしい「リング」

【収録内容】
リヒャルト・ワーグナー:舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』全曲

Disc 01-02 序夜:楽劇『ラインの黄金』全曲


ヴォータン:アルベルト・ドーメン
ドンナー:ラルフ・ルーカス
フロー:クレメンス・ビーバー
ローゲ:アルノルト・ベゾイエン
ファゾルト:クヮンチュル・ユン
ファフナー:ハンス=ペーター・ケーニヒ
アルベリヒ:アンドリュー・ショア
ミーメ:ゲルハルト・ジーゲル
フリッカ:ミシェル・ブリート
フライア:エディット・ハラー
エルダ:クリスタ・マイヤー
ヴォークリンデ:フィオヌアラ・マッカーシー
ヴェルグンデ:ウルリケ・ヘルツェル
フロスヒルデ:ジモーネ・シュレーダー
バイロイト祝祭管弦楽団
クリスティアン・ティーレマン(指揮)

録音時期:2008年
録音場所:バイロイト祝祭劇場

Disc 03-06 第一夜:楽劇『ワルキューレ』全曲


ジークムント:エントリク・ヴォトリヒ
フンディング:クヮンチュル・ユン
ヴォータン:アルベルト・ドーメン
ジークリンデ:エファ=マリア・ウェストブロック
ブリュンヒルデ:リンダ・ワトソン
フリッカ:ミシェル・ブリート
ゲルヒルデ:ゾーニャ・ミューレック
オルトリンデ:アンナ・ガブラー
ワルトラウテ:マルティーナ・ディーケ
シュヴェルトライテ:ジモーネ・シュレーダー
ヘルムヴィーゲ:エディット・ハラー
ジークルーネ:ウィルケ・テ・ブルメルストルーテ
グリムゲルデ:アンネッテ・キュッテンバウム
ロスヴァイセ:マヌエラ・ブレス
バイロイト祝祭管弦楽団
クリスティアン・ティーレマン(指揮)

録音時期:2008年
録音場所:バイロイト祝祭劇場

Disc 07-10 第二夜:楽劇『ジークフリート』全曲


ジークフリート:ステファン・グールド
ミーメ:ゲルハルト・ジーゲル
さすらい人:アルベルト・ドーメン
アルベリヒ:アンドリュー・ショア
ファフナー:ハンス=ペーター・ケーニヒ
エルダ:クリスタ・マイヤー
ブリュンヒルデ:リンダ・ワトソン
森の鳥:ロビン・ジョハンセン
バイロイト祝祭管弦楽団
クリスティアン・ティーレマン(指揮)

録音時期:2008年
録音場所:バイロイト祝祭劇場

Disc 11-14 第三夜:楽劇『神々の黄昏』全曲


ジークフリート:ステファン・グールド
グンター:ラルフ・ルーカス
ハーゲン:ハンス=ペーター・ケーニヒ
アルベリヒ:アンドリュー・ショア
ブリュンヒルデ:リンダ・ワトソン
グートルーネ:エディット・ハッラー
ヴァルトラウテ:クリスタ・マイヤー
第1のノルン:ジモーネ・シュレーダー
第2のノルン:マルティーナ・ディーケ
第3のノルン:エディット・ハラー
ヴォークリンデ:フィオヌアラ・マッカーシー
ヴェルグンデ:ウルリケ・ヘルツェル
フロスヒルデ:ジモーネ・シュレーダー
バイロイト祝祭合唱団(合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ)
バイロイト祝祭管弦楽団
クリスティアン・ティーレマン(指揮)

録音時期:2008年
録音場所:バイロイト祝祭劇場

 

2024年1月1日、ウィーン・フィル恒例のニューイヤー・コンサートの指揮台に、現代の巨匠、クリスティアン・ティーレマンが立ちました。彼は1959年西ベルリン生まれ。数々の劇場でオペラを振り、キャリアを積んできた、現代では珍しい叩き上げ(カペルマイスター)型の指揮者です。

ウィーン・フィルとの2度目の手合わせ(1度目は2019年)となるニューイヤーでは、オーケストラからじっくりと滋味あふれるサウンドを引き出し、大勢の観客を酔わせました。

このコンサートの中継をテレビで観て、ティーレマンの演奏をもっと聴きたいと思われた方は少なくないと思います。ティーレマンのディスクは夥しい数にのぼり、ウィーン・フィルとのベートーヴェン、ブルックナー交響曲全集やドレスデン・シュターツカペレとのブラームス交響曲全集など、お薦めを挙げ出せばキリがないでしょう。

しかし、彼の本領は何と言ってもオペラで発揮されます。レパートリーとしては、十八番のリヒャルト・シュトラウスも素晴らしいですが、何と言ってもワーグナーの演奏がティーレマンの代名詞と言っていいくらい、傑出した出来栄えだと思います。

その中でも特筆したいのは、今回取り上げる「ニーベルングの指環」全曲ボックス。ただし、ウィーン国立歌劇場で収録した2011年ライブではなく、2008年のバイロイト音楽祭の実況録音の方です。ウィーン盤も優れた出来なのですが、やはりバイロイトの独特な空気感をとらえた2008年盤を推したいと思います。

再生してみて、「ラインの黄金」の冒頭から「あっ、これこれ!」と唸ってしまいました。

茫洋としてずっしり重いサウンド。各動機が煌めきながら絡み合い、咆哮し、あるいは沈潜し、聴き手をワクワクさせながら異世界に連れて行く背徳的な雰囲気。

まるで、ゲオルク・ショルティ&ウィーン・フィルのハイライト盤や、バイロイトの「指環」ライブを初めてラジオで聴いた時(バレンボイムの1988年公演)のような初々しい感動が私の中で蘇りました。

それにしても、「ラインの黄金」第2場のファーゾルトとファーフナーの登場シーンの威圧的な音楽の迫力はすごい。まさに巨人の登場を想起させます。「ヴァルハラ城への神々の入城」からラインの乙女たちの嘆き、そして幕切れまでの壮大な音楽のドラマには息を呑むようで、ティーレマンの腕前には感服してしまいます。

「ワルキューレ」もジークムント、ジークリンデ、ブリュンヒルデ、ヴォータン、フンディングの目まぐるしい意思の交錯とドラマの転換を巧みにさばき切り、軽快に華やかに聴かせる手腕は見事。有名な「ワルキューレの騎行」もめちゃくちゃカッコよく聴かせます。

次の「ジークフリート」は、4部作の中では地味で聴き劣りするようにも言われますが、悪役アルベリヒの弟で複雑な立ち位置のミーメと養い子のジークフリートとの対話的なドラマが中心となり、実は聴きごたえ十分です。それだけに、歌手の力量が大きく出来栄えに作用しますが、ジークフリート役のステファン・グールドとミーメ役のゲルハルト・ジーゲルはその大役を十分に果たしており、感動的な好演と言えるでしょう。

あらすじだけ読めば、ミーメはとても腹黒い奴なのですが、ディスクを鑑賞する中では義人のようであり、せっかく助けてやった育ての息子が実は凶悪であり、ことごとく仇で返されてしまう。それは祖父であるヴォータンも一緒。…なんて風に聴こえてしまいます。この演奏はそこがとてもユニーク。

しかし、そこからジークフリートが自分の出生を知り、ファーフナーとミーメを倒し、ブリュンヒルデと劇的に出会い、愛の言葉を交わし合うところまで、その流れは起伏があってとても分かりやすく、面白く聴けました。

それにしても、さりげなく鳴り響く「森のささやき」と「ジークフリート牧歌」のなんと美しいことか!

最後の「神々の黄昏」には何も言うことがありません。冒頭の「ジークフリート ラインへの旅」からロマンティックで迫力に満ち、その後のハーゲンらの謀略とブリュンヒルデの錯乱に至るまでのドラマにも全くスキがない。ハッキリ言って、これだけ長いオペラですから、飛ばし聴きなんて珍しいことではないのですが、ティーレマンは飽きさせません。

そしてこの長大なオペラのクライマックス。「ブリュンヒルデの自己犠牲」から「愛の救済の動機」までの感動。ティーレマンは21世紀において、素晴らしい「指環」の記録を作り上げてくれました。

歌手の充実ぶり、バイロイト祝祭劇場が目の前に現れたような鮮明な音質。全てが素晴らしいです。ぜひ、ティーレマンの実力を堪能する意味でも、このボックスを聴いて頂きたく思います。

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