3月の試聴室 クリスティアン・ツィメルマンのショパン

きらめく音と冴え切った技巧が見事なショパン

YouTubeが普及し、あらゆるクラシック音楽(演奏)が誰でも容易に聞けるようになりました。

CDが1枚3,000円もかかり、エアチェックのためにラジカセの前でじっと待機していた頃に比べると、隔世の感があります。

ただし、著作権的に微妙なものもアップロードされており、このブログで積極的に紹介することは差し控えますが、先日たまたま「名曲のたのしみ(音楽評論家の吉田秀和氏が司会を務め、2012年まで放送されていたNHK-FMの長寿番組)」の投稿を見つけ、中身があまりに素晴らしい演奏だったので、今日はそれについて書こうと思います。

放送はおそらく1995年頃。名ピアニスト、クリスティアン・ツィメルマン(1956年12月5日 – )が弾くショパンの「バラード」全曲を聴くという内容です。

音楽が流れるや否や、そのあまりの美しさにハッとしました。実はわたくし、ショパンのあまり熱心な聴き手ではありませんが(特にバラードは普段ほとんど聴きません)、清流の水のような透き通った美しさ、キレのある中低音、物語の情景描写のように生き生きと躍動する音楽。どこをとっても、冗長緩慢なところがなく、しかもテクニックは完璧なのです。

いろいろ資料を当たってみると、実はこのピアニストの抜きんでた美音には理由があり、ツィメルマンは若い頃、ピアノ部品の製作・修理を自ら行っていて、ピアノの構造や音響の仕組みについて、深い知識を有しているとのことでした。調律も会場の音響を計算しながら調律師と共同で行ったり、またスタジオ建設も経験するなど、明らかに他のピアニストよりも手前の地点から音楽に取り組んでおり、それがあの美音を生み出す秘訣となっているのです。

ところでツィメルマンといえば、皆さんは上の2種類のディスクを推薦盤に挙げるのではないでしょうか。ネアカでフレーズの一つ一つにこだわりを聴かせるベートーヴェン。情感豊かで今どきの演奏とは思えないくらいルバートをかけるショパン。ポリーニやアルゲリッチも唯一無二の独創性を持っていますが、ツィメルマンはさらに一歩踏み込んでいるような気がします。ある意味、フルトヴェングラーに相通ずる独特の感性を感じます。

今回YouTubeで流れたショパンの「バラード」も何度聴いても飽きない名演ぞろい。

【収録内容】
ショパン:
1. バラード 第1番 ト短調 作品23
2. バラード 第2番 ヘ長調 作品38
3. バラード 第3番 変イ長調 作品47
4. バラード 第4番 ヘ短調 作品52
5. 舟歌 嬰ヘ長調 作品60
6. 幻想曲 ヘ短調 作品49

ピアノ:クリスティアン・ツィマーマン
録音:1987年7月 ビーレフェルト

 

1番はそれぞれの場面の弾き分けが巧みで交響詩のよう。2番は第2主題とコーダのキレが凄まじい。リズムの取り方が独特で、これはウィーン人によるウィンナ・ワルツ演奏同様、ポーランド人であるツィメルマンだからこその芸当とは言えないでしょうか。3番も後半の有名な旋律だけでなく、前半の玲瓏な雰囲気がたまりません。

4番はこのアルバムの白眉です。冒頭の「トロイメライ」のようなリリックさ。淡々と暗い翳がひたひたと付いてくるような前半部、高度な演奏技術の中に多彩かつ煌めくような美音が交錯する劇的な後半部。ラストのスピード感と激しさ、堂々たる打ち込みはまさにツィメルマンを聴く醍醐味と言えるでしょう。

有名な「舟歌」も陽光のもと、のどかに川をわたる「舟歌」本来の姿を感じさせます。また、「幻想曲」後半の多彩な旋律、リズム、テンポの応酬はテクニックの凄みもさることながら、ショパンの音楽の面白さをこれでもか!と聴かせてくれる名演奏で、この曲の推薦盤として第一に挙げたいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA