ロンドン中世アンサンブル『オワゾリール録音全集』

中世音楽の神秘的世界を楽しめるボックス

【収録内容】
Disc 01 『マッテオ・ダ・ペルージャ:世俗歌曲集』
1) その日がいつか来るのでしょうか
2) わが愛する奥方様
3) 陽の光の中を
4) 貞淑な奥方様
5) 並ぶもののない奥方様
6) 私には救いが何ひとつ見つからない
7) 良い結果を期待していたのに
8) 私には関係ない
9) もし私が運命の女神のことを嘆くなら
10) 比類なく美しい方よ
11) ああ、お慈悲を
12) 愛のわなからもはや解き放たれて

【録音】1978年1月

『ギヨーム・デュファイ:世俗音楽全集』
Disc 02
1) 新玉の年を迎えて楽しもうよ
2) 気高い恋人たちよ、そなたたちの間で
3) 目を覚ましなさい、そして晴れやかな顔をして
4) 私は心をこめ、思いをこらして
5) 鋭い矢に傷つけられた私
6) あなたの気高い美しさ、溢れる美徳、類なさ
7) ああ、いつの日にあなたに会えるだろうか
8) すべての恋人たちに私は贈る
9) 愛に満ちた心で歌いたい
10) 私の心はいつも私を思いにふけさせる
11) 私はすべて恋する者に求める
12) 恋する私たち、目覚めよ
13) 仇なす嫉妬よ
14) 私の美しい人よお願いです
15) 今はもう過ぎてしまったその日よりこれらの思いは
16) あなたの甘く優しい物腰に
17) 私が嘆き呻くのもむりからぬところ
18) 美しい人よ、どんな過ちを犯したのかこの私が
19) 恋しい人にもしお会いできるのなら
20) 親しい友よ何故考えたのか

Disc 03
1) 心を蕩かすたおやかな美女よ
2) 私の気高くも美しい人よ
3) ああいとしい人よ愛を用いて
4) 待ちましょう、あなたに私の想いを
5) 心に痛みを抱くこの私
6) 美しい乙女は塔の下に座り
7) 月は五月いざ楽しもう心も軽く
8) 私はもうかつての私ではない
9) 心蕩かすその姿
10) 哀れにもわが身をかこつ
11) 早くやっておいで恋の喜びよ
12) 燃えるような眼差しが、恋人よ
13) その気高い額のお方が天国に
14) よき日よき月よき年とそしてよき贈り物
15) 私に悦びを下さるのならば私もお返ししよう
16) かつてなし得たことももはやできぬ私
17) 私の優しい人を恋い慕うあまりに
18) さあ友だちよ、目を覚まそうよ
19) さようならランの美しきかの酒よ
20) 私の優しい人を恋い慕うあまりに
21) ポルトガル
22) 美しい人よ私をあなたの召使いに
23) 陽の輝きを装われた美しい処女マリアよ
24) 美しい人よ情をかけてほしい

Disc 04
1) まこと隠れもない貴公子の名を称え
2) わが宝、わが愛、わが恋人
3) 今はしばしの別れ恋人よ
4) 数知れぬ挨拶をあなたに
5) 気高く優しい人よ、私はあなたを恐れ
6) 限りなく苦しい辛い想いのなかで
7) 私の顔が蒼ざめているのは
8) 黄金のように美しく気高い聖母マリアよ
9) 心をこめてお仕えせねばなりませぬ
10) ああどうしたらよいのか、どうなるのでしょう私は
11) この喜ばしき世界は光をかかげ
12) 果してあなたのお恵みが得られましょうか
13) 誠の心はいったいどうなったのか
14) めぐり来る季節のように今日なすべきことは
15) レオ殿これはようこそ
16) 身を守る砦を攻めおとしてほしい

Disc 05
1) 私の顔が蒼ざめているのは
2) 哀れな殉教者となって痛み疲れた私
3) 苦しみにあえいでもう久しい
4) 私は逃げていかれたあの方をお慕い申します
5) 進めわが心よ夜となく昼となく
6) 私を囚われの身としたあの人故に
7) あなたの眼差しとしとやかな物腰が
8) 願わくばあの方のお気に召すまま
9) ある青年が少女に
10) 私がただ恐れたのはよこしまな者たち
11) あなたの美しい眼差しゆえに
12) さようならわが残された生命を捨てて
13) あなたを喜ばせうることがあるならば
14) 美しい人よ私の仇をとってほしい
15) コンスタンティノープル聖母教会の嘆き
16) さようなら我が恋よ、さようなら我が歓びよ
17) 私の顔が蒼ざめているのは
18) まどろむでもなく目覚めるでもなく
19) あなたは戦士なのだから

Disc 06
1) ああ処女なる花のなかの花よ
2) とても優しい恋人よお願いですから
3) わが心のこよなく愛しい人よ
4) 口さがない邪な者よ退れ
5) 神よ守らせ給え欠けるところのないよき女を
6) 酷い痛手でもって勝ち誇りながら
7) あなたほどのお人を私はまだ見たこともない
8) 私のなみなみならぬ素晴らしい冒険で
9) すっかり身を捧げていた私ですが
10) 恵まれぬ心よどうしようというのか
11) 私のただひとつの快楽、私の心蕩かす欣びよ
12) ああ私の苦しみその痛手に私は死ぬ
13) 気高く淑やかな心よ、すべての女性にもまして艶やかな
14) あなたの評判そしてあなたの高い名声は
15) 抗うでしょう、16) 好運を享けるしもべとして
17) かくも激しく身に迫り来るわが痛みは

【録音】1980年2月-7月(CD 2-CD 6)

『ヨハネス・オケゲム:世俗音楽全集』
Disc 07
1) 口には笑みを湛え
2) 妾はあの方に捨てられ
3) 恋の相手を変えたのなら
4) まことの苦しみが訪れようとするとき
5) 他の人のことなど
6) ほとんど死んでいるともいえるほどに傷ついた私は
7) わが姫君こよなく心を惹きつける愛しい人よ
8) 不実な者たちが
9) 死よ、そなたは矢で傷つけてしまった
10) ただあなたのお姿を見失うだけで
11) 私が悩んでいることを
12) あなたの恋の手習いは

Disc 08
1) いまはもうただ死を心待ちにするよりほかに
2) 去年のある日すれ違ったとき
3) あの人が私を想うてくれるかどうかは分らぬが
4) おお美しい薔薇よ
5) まこと優しい心で
6) 妾は悲しいのです(Version 1)
7) 不幸が私を襲い
8) もしあなたの心が
9) どんな生き方をしているのかとお尋ねですか(ヨハネス・コルナゴ作)
10) どんな生き方をしているのかとお尋ねですか
11) 妾は悲しいのです(Version 2)
12) 恋するお人から離れているのは
13) フランスの国びとよ
14) きみよ、別れ給え
15) 他の男のものになったからには
16) あなたは間違いもなくもうひとりのヴェヌス
17) されば私に接吻をはげしく
18) 私があの方に約束したことをのぞけば

【録音】1981年2月(CD 7&CD 8)

Disc 09『悪魔の歌/14世紀後期のバラード、ロンドー&ヴィルレー』
シュゼ:
1) ローマの貴人フロフィリアアスは
2) 私の姿はたとえてみれば枯木
3) ピュタゴラス、ユバル、オルペウスは

サンレーシュ:
4) 幾度も私はあきれてしまう
5) このうららかな、美わしい季節に
6) ここを逃れて行こう

グイド:
7) 神よ守らせたまえ、この歌をよく歌う者を
8) さてこそ、すべてはもうなりゆきまかせ

サンレーシュ:
9) 旋律ゆたかなハープを
10) 待っていれば希望が慰めてくれる
11) 私をただながめみつめているあの人は
12) オリヴィエ:たとえれば、私の心は痛ましい殉教者としてここに眠る

ガリオ:
13) 運を天にまかせ危険と知りつつ
14) とろけるような日々を待ち望めば

作者不詳:
15) 川にかこまれたアルビオンで
16) 私はもうすべての力を失ってしまったが

【演奏】
マーガレット・フィルポット(メッゾ・ソプラノ)、ロジャーズ・カヴィ=クランプ、ポール・エリオット(テノール)

【録音】1982年1月

Disc 10
ギヨーム・ド・マショー:『泉のレ』
1) 私はたえず祈っているのです
2) 一体どこでみつけることができようか
3) そのお方とは、ほかならぬ
4) この三つが一つだということは
5) そしてもしこの水を取って
6) だがこの三位一体は
7) それ故、父は水脈と呼ばれ
8) それ故にこそ私はいうのだ
9) それ故にこそあなたにお祈りいたします
10) 一生懸命泣いてみたとて
11) おお、和合の泉よ
12) これまで私の過ちの元となっていた

『慰めのレ』
13) 人は誰でも他人の考えていることよりも
14) 徳高く、非のうちどころなき
15) 気がついてみると
16) 誉れある姫君よ
17) そうしたあとであなたから
18) それは私をとても大きな歓喜の中に
19) ああ、その甘くすばらしくうるわしい
20) 死よりもずっと恐れていたことが
21) あの方は本当に
22) 私には判らない
23) いとやさしきすばらしきわが姫君よ
24) 恋する男よ

【演奏】
アンドリュー・キング、ポール・エリオット、ロジャーズ・カヴィ=クランプ(テノール)

【録音】1982年1月

Disc 11 『15世紀の英国世俗歌曲集』
ジョン・ベディンガム:
1) 私のまことの喜びよ
2) おお美しきバラよ、おお優しきわが心の君よ
3) 有難いご褒美をいただいた僕として
4) 私の心の喜びよ
5) あなたに会わずにはいられません
6) ああ、運命の女神よ
7) 愛の手紙よ、私を悲しませるあの女に言ってくれ

ジョン・ダンスタブル:
8) 愛しい人が私を嫌って
9) 哀れな殉教者となって病み疲れた私
10) 心からのお願いをどうぞお聞きください
11) おお美しきバラよ、おお優しきわが心の君よ

ウォルター・フライ:
12) ああ、ああ、と私は繰り返すばかり
13) Watlin Frew
14) 私の記憶にはこんなに深く刻まれている
15) 姿が見られぬようにただひとりはなれて

【録音】1983年1月

Disc 12 『ハインリヒ・イザーク:シャンソン、フロットラ&リート集』
1) お前、身持ちが
2) ある日、朝方
3) わが胸のうちの悩みを
4) ああ、私の心は
5) 嫉妬を最初に見つけた者は
6) 私は恋におち
7) 私は安楽には暮らせない
8) 従僕
9) 父さん私に夫をくれた
10) たっぷり飲んで
11) 奥様、あなたの家の中には
12) 手に負えない運命の女神よ
13) これほど美しく立派な女神たちは
14) 今や五月
15) 半鐘
16) 私にはしあわせな日など
17) ラ・モルラ
18) お百姓に娘がいた
19) おお、情熱に燃えるヴィーナス
20) インスブルックよ、さらば
21) 楽しいふし
22) これはほんとに驚いた
23) 山と深い谷の間に
24) 朝早く起きてみると
25) 犬
26) こぼし屋、けんか屋、すすりあげ

【録音】1983年1月

Disc 13
ジョスカン・デプレ:
『ミサ・ディ・ダディ』
1) 第1曲:キリエ
2) 第2曲:グローリア
3) 第3曲:クレド
4) 第4曲:サンクトゥス―ベネディクトゥス
5) 第5曲:アニュス・デイ

ミサ『フザン・ルグレ』
6) 第1曲:キリエ
7) 第2曲:グローリア
8) 第3曲:クレド
9) 第4曲:サンクトゥス―ベネディクトゥス
10) 第5曲:アニュス・デイ

【録音】1984年1月

Disc 14 『ジョスカン・デプレ:世俗音楽集』
1) 夫は私を侮辱した
2) この貧しい托鉢修道士―われは、あわれなり
3) 私の愛しい女はあらゆるすぐれた才にたけ
4) 以前、運命の女神は
5) 美しい乙女は塔の下に座り
6) 私は
7) 奥様、あなた以外には―平安に
8) ただそれだけ
9) もうとてもできない
10) ああ、マリオンが
11) 茂みのかげで、朝
12) あなたに会うと
13) 死にあたって―御身、み母なること示したまえ
14) ラ・ベルナルディーナ
15) 絶望的な運命の女神
16) いとしい方を失ったら
17) ああ、奥様
18) 最高のうちでも最高のひと
19) 奥様、ああ
20) ジョスカンのファンタジー
21) 私はもの思いに沈んだ
22) 川のほとりの茂みのかげで

【録音】1984年1月

【演奏】
ピーター・デイヴィス&ティモシー・デイヴィス(指揮)
ロンドン中世アンサンブル

 

「オワゾリール」と言う名前を聞くと、ものすごく懐かしい感じがします。日本語でコトドリ(琴鳥)を意味しますが、デッカ系の古楽専門レーベルとして記憶しています。アントニー・ルーリ&コンソート・オブ・ミュージック、クリストファー・ホグウッド&エンシェント室内管弦楽団を看板とし、特にホグウッドは、80年代前半の古楽界を席巻しました。

個人的にも、ホグウッドのモーツァルト「ト短調」を初めて聴いた時は大変な衝撃で、終始キレのある響き、波打つようなアーティキュレーション、フルトヴェングラーばりのスピードに圧倒された記憶があります。

さて、ホグウッドは有名曲を万遍なく録音しましたが、オワゾリール自体は基本的にマニアックなテーマのアルバムづくりに注力しました。グレゴリオ聖歌に始まり、デュファイ、オケゲム、パンショワなど、ルネサンス以前の中世音楽に強みがあったのは特徴的だったと言えます。

本日採り上げるロンドン中世アンサンブルの一連の録音など、発売当時はいったい誰が買うんだろうと思ったくらい、攻めた選曲です。実際にこれらは、1980年から1985年の間に「フロリレジウム・シリーズ」として発売されました。

演奏者のロンドン中世アンサンブルは、1974年に設立。中世の作品の復興を目指すピーター・デイヴィスとティモシー・デイヴィス兄弟は、尊敬する古楽演奏のパイオニア、デイヴィッド・マンロウの遺志を継ぎ、それまで顧みられなかった古い作曲家に光を当て、最新の研究に基づいた忠実な再現を目的にレコーディングを始めました。

このボックスは、そうした彼らの志の高い素晴らしい仕事の全てを収めたものです。

特筆すべきは、ディスク2~6の『ギヨーム・デュファイ:世俗音楽全集』で、歴史に残る偉業と言って良いでしょう。デュファイは、1397年8月5日生まれ、1474年11月27日没の、ルネサンス期ブルゴーニュ楽派の音楽家で、日本では室町時代、中国では明の絶頂期に当たる時代に活躍した人です。

ギヨーム・デュファイ(1397年-1474年)

皆さん、中世の音楽というのは聴いたことがありますか?教会音楽(合唱曲)が中心で、素晴らしい曲も多いとはいえ、まだまだ調性やリズム、和声に不安定な部分が見られたり、表情がのっぺりしたりしています。

それでも単旋律からオルガヌムという特殊な多声化を経て、4声のポリフォニーに辿り着いたことは大きな飛躍でした。その発展の入り口にいたのがマショー(1300年頃 – 1377年)だとすれば、完成させたのがデュファイです。

デュファイは、イギリスの和声法、フランスのイソ・リズム法 、イタリアの旋律優位の音楽書法を統合し、多声音楽の根幹である対位法を磨き上げることで、脱教会の現代の芸術音楽の原型を作り上げました。

またデュファイは、多くのシャンソンを遺しています。デュファイ以前にも、「カルミナ・ブラーナ」や「吟遊詩人の音楽」など、人間味あふれる音楽はたくさん書かれていますが、どちらかというと祭礼の趣が強くありました。

それらに比べると、デュファイの世俗音楽は現代の歌唱にぐっと近づきます。中世の曲が野卑で人間のエロスを丸出しにしていたとすれば、デュファイの曲には切なさとか抑えた感情が色濃く漂い、強く聴き手の心に訴えかけるのです。

例えば、ディスク3の7曲目「月は五月いざ楽しもう心も軽く」は心温まる曲で、何度でも聴きたくなります。さらに24曲目の「美しい人よ情をかけてほしい」の切々と迫る心の叫び!恋愛の苦しみが中世人でも現代人でも共通であることに感銘を受けてしまいました。そう、どの曲にも生身の人間の「心」が込められているのです。

それにしてもロンドン中世アンサンブルの演奏は見事。モーツァルトやベートーヴェンのように豊富な資料も先人のレコードもないのに、暗中模索で各曲に当たって、これだけのクオリティを再現したのは奇跡です。デュファイの世俗音楽を普通に楽しめる土壌を作った彼らの功績はどんな賞賛の言葉をもってしても足りないでしょう。

それは同じく、彼らの「オケゲム:世俗音楽全集」にも当てはまります。

オケゲム (1410年頃 – 1497年)

オケゲム(1410年頃 – 1497年)はフランドルの作曲家。このボックスには、彼の現存するシャンソン22曲と他作の編曲、疑作も含めた世俗曲が完全に収録されています。オケゲムの作品は当時の「定量記譜法」で書かれ、読むのが非常に難しいとされるのに、1980年代にこれだけ優れた録音を実現した労力には頭が下がります。

さて、肝心なオケゲムの音楽ですが、世俗音楽と謳いながら、より教会に近い音楽に聴こえます。ただし、これは中世音楽に戻ってしまったというより、より多声音楽としての技巧を高めていった結果と見ることができるでしょう。これは併録されたジョスカンの音楽も同様で、世俗音楽でもより技巧を凝らす実験的な方向を目指すようになります。

それでも、「去年のある日すれ違ったとき」のように、明るい南欧の日差しを感じさせるような曲もありますから、四角四面の冷たい音楽ばかりという訳ではありません。実際に30曲をみっちり聴いて、オケゲムの才能の豊かさを堪能頂くことにしましょう。

まだまだ書きたいことはたくさんありますが、このボックスは、中世からルネサンスに至る音楽史の最も重要な時代の曲を余すところなく押さえていて、ものすごく価値が高いと思います。また、疲れた心を癒すのにも最適のボックスです。廃盤になる前に、ぜひお買い求め頂きたいと思います。

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