アシュケナージ モーツァルト ピアノ協奏曲全集 – 01

飾らない 天才の音楽が飛翔する名全集

【収録内容】
Disc 01

ピアノ協奏曲 第1番 ヘ長調、K.37
ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調、K.39
ピアノ協奏曲 第3番 ニ長調、K.40
ピアノ協奏曲 第4番 ト長調、K.41

Disc 02
ピアノ協奏曲 第5番 ニ長調、K.175
ピアノ協奏曲 第6番 変ロ長調、K.238
ピアノ協奏曲 第7番 ヘ長調、K.242 (3台のピアノのための)

Disc 03
ピアノ協奏曲 第8番 ハ長調、K.246
ピアノ協奏曲 第9番 変ホ長調、K.271「ジュノム」


Disc 04
ピアノ協奏曲 第10番 変ホ長調、K.365 (2台のピアノのための)
ピアノ協奏曲 第12番 イ長調、K.385p(K.414)
ロンド ニ長調、K.382
ロンド イ長調、K.386

Disc 05
ピアノ協奏曲 第11番 へ長調、K.387a(K.413)
ピアノ協奏曲 第13番 ハ長調、K.387b(K.415)

Disc 06
ピアノ協奏曲 第14番 変ホ長調、K.449
ピアノ協奏曲 第15番 変ロ長調、K.450

Disc 07
ピアノ協奏曲 第16番 ニ長調、K.451
ピアノ協奏曲 第17番 ト長調、K.453

Disc 08
ピアノ協奏曲 第18番 変ロ長調、K.456
ピアノ協奏曲 第19番 ヘ長調、K.459


Disc 09
ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調、K.466
ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調、K.467

Disc 10
ピアノ協奏曲 第22番 変ホ長調、K.482
ピアノ協奏曲 第23番 イ長調、K.488

Disc 11
ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調、K.491
ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調、K.503


Disc 12
ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調、K.537「戴冠式」
ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調、K.595

ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノと指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
※第7番、第10番のみ
ダニエル・バレンボイム(ピアノと指揮)
イギリス室内管弦楽団
※第7番のみ フー・ツォン(ピアノ)
※ロンド イ長調のみ
イシュトヴァン・ケルテス(指揮)
ロンドン交響楽団
録音:1966年~1987年

 

今回は、2020年にすべての演奏活動から引退したピアニスト、指揮者のヴラディーミル・アシュケナージ(1937年7月6日 – )が壮年期に完成したモーツァルトのピアノ協奏曲全集についてご紹介したいと思います。

80年代はこれらのCDが決定盤の扱いを受け、私もバラ売りでコツコツ揃えたものです。

そもそも、モーツァルトのピアノ協奏曲は日本で大変人気が高く、以前から多くの全集がリリースされました。

若き日のバレンボイムがイギリス室内管弦楽団を弾き振りした演奏。軽やかで閃きに満ち、浪漫性にも欠けません。ためしに「23番」のコンツェルトを聴いてみてください。第2楽章は間合いの取り方、デュナーミク共に天才のワザです。

あと80年代になると、珠のように美しいピアノと蠱惑的なオケが溶け合うブレンデル盤、完璧無比に設計された内田光子盤、ゆとりにみち美しいペライア盤、クセが強めなものの音のご馳走というべきシフ盤がほぼ同時期に続々と発売され、幸せな体験に浸ることができました。

その中でもアシュケナージの録音はオーソドックスで万人に勧められる名盤として高い評価を受けたのです。

 

1桁台の協奏曲の魅力~アシュケナージのクセのない名演~

当然、全集ですからピアノ協奏曲第1番から始まりますが、これがまあ見事としか言いようがない。何と神童11歳の時の作品です。しかし、完全オリジナルの作品でなく、パリ旅行中に知り合ったH. F. ラウパッハ、L. ホーナウアーという二人の作曲家が書いたピアノ・ソナタを編曲したもので、父レオポルトの校正の跡も自筆譜に遺っています。

第1楽章の転調部分

アレグロ楽章が鳴り響くな否や、いつもの飛翔するモーツァルトの音楽にうっとりするでしょう。逆にこの楽章の後半、突如。短調に変わり、トルコ風のリズムで押し切る大胆さには驚かされます。2楽章のアンダンテも、後年のモーツァルトを彷彿とさせる天国的な長閑さ。フィナーレは多少落ちますが、短いパッセージの中にニュアンスに富んだ閃きを聴きとれるでしょう。

アシュケナージはやや早めのテンポでオケと緊密にバランスを取りながら、スマートな音楽運びを成功させています。

掘り出し物は第7番「ロドロン」でした。“3台のピアノのための協奏曲 ヘ長調 K. 242” という名前でも知られるこの曲は、のちに作曲家自身の手で「2台のピアノ」用に編曲されていて、今日ではそちらの方が有名になっていますが、このボックスではオリジナルの3台版で楽しめます。

さて、この曲はザルツブルクの名門貴族、ロドロン家のアントニーナ伯爵夫人とその令嬢アロイジア、ジュゼッパのために作曲されました。ピアノパートは彼女らの演奏能力に合わせて書かれ、第1、第2パートはアントニーナとアロイジアが担当。第3パートは主に伴奏形で易しめに書かれています。

同形態の現代音楽作品に比べると、ずっと大人しめでコントロールが行き届いた作品になっていますので、派手な音の饗宴をイメージしていたら肩透かしを食うことでしょう。しかし、この貴族の3人の美女が優雅にピアノを愉しむような雰囲気は独特で、アシュケナージ、バレンボイム、フー・ツォンの3人も肩の力を抜いて、演奏を楽しんでいるようです。

有名な第9番「ジュノム」も素晴らしい。この曲は21歳とその才能が大いに飛躍した頃のモーツァルトの名曲。フランス人舞踏家ジャン=ジョルジュ・ノヴェールの娘でピアニストのヴィクトワール・ジュナミに献呈されました。

従来、この曲の由来が誤って流布し、フランス語で「若者」を意味する “jeune homme” (ジュノム)という名称が広く使われましたが、現在では「ジュナミ」の表記が徐々に広まってきています。ただ、この投稿では皆さんお馴染みの「ジュノム」に依ることにします。

1777年のモーツァルト

さて演奏ですが、フィルハーモニア管弦楽団の色彩に富んだ音色が本当に美しい。有名な1楽章の冒頭から、まさしくモーツァルトという佇まいです。そして、2楽章では憂いに満ちたオーボエとまろやかなホルンの響き、さざ波のような弦、そしてアシュケナージの響きの深いピアノとが絶妙のバランスで溶け合っています。

ロンド楽章は悪戯っぽい主旋律が疾走するように展開されますが、最後の方で心癒されるピッツィカート、印象的なカンタービレが鳴り響くと、「あぁ、モーツァルト」と思わず唸ってしまいます。アシュケナージは抜群のテクニックでありながら全くクセを出さず、ひたすら流麗な音楽に奉仕するので、安心して身を任せられるのです。

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