ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲全集

新世界交響曲だけではない!ドヴォルザークの魅力

 

アントニン・ドヴォルザークと言いますと、チェコを代表する大作曲家。何と言ってもあの「新世界交響曲」や、ピアノの佳品「ユモレスク」、それからチェロ協奏曲といった素晴らしい曲群を作曲した人として有名です。

彼の最大の特徴はその美しいメロディの数々。西洋音楽史全般を見渡しても彼は屈指のメロディメーカーだったと思います。

「新世界」の第2楽章第1主題なんて、学校の登下校の音楽として日本人なら耳にタコができるほど聴いてきたことでしょう。

また、同じ曲の4楽章なんて、あまりのカッコよさに震えますよね。

しかし、ドヴォルザークの凄いところはそうした旋律を短いパッセージの中に次々と繰り出しておきながら、展開・変奏・再現といった様々な形で処理していくところです。上に挙げた新世界の2楽章と4楽章の主題なんて全然雰囲気が違うのに、4楽章の後半から互い違いに出現するのを聴いて初めて、「あっ、二つは同じ音型なんだ!」と気づいてびっくりしてしまいます。いや、それどころか1楽章と3楽章もおんなじ。すなわちこれは、ベートーヴェンの運命みたいに一つの動機を展開していく音楽と分かるわけで、そうした作曲技法の見事さにもドヴォルザークの才能を感じることができます。

さて、今日ご紹介するのは、そんなドヴォルザークが最も得意としたジャンル、室内楽です。

ドヴォルザークの室内楽と言いますと、何と言っても有名なのが弦楽四重奏曲第12番 ヘ長調 作品96、B.179 『アメリカ』 。

冒頭の旋律から土俗的でお祭りのような楽しさ。しかも主題を奏でるのは一番地味なヴィオラ。でもこれがとても好いんですね。さらに懐かしく優しくヴァイオリンが歌い上げる第2主題!

第2楽章の胸が詰まるような切なさ、寂しさ。第3楽章のまさにドヴォルザークらしさに満ちたスケルツォ。第4楽章の汽車が力強く疾走するようなリズム感。どこを聴いても理屈っぽくなく、楽しい曲です。

私はこの曲に関しては昔からスメタナ四重奏団のレコードが大好きで、何度聴いたことか分かりません。チャイコフスキーならロシア、ドビュッシーならフランスの演奏家に限るなんてことは私は思いませんが、ドヴォルザーク、スメタナ、ヤナーチェクといったチェコ音楽に関しては、やはりチェコの演奏家が体に染みついた歌いまわしやリズム感でやってくれるので、やはり第一に挙げざるを得ません。

 

しかし、残念ながらスメタナ四重奏団はドヴォルザークの弦楽四重奏曲全集を遺してくれませんでした。

代わりに私が入手したのが、プラハ弦楽四重奏団によるものです。

ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲全集

Disc 01
・弦楽四重奏曲第1番イ長調 作品2 B.8
・弦楽四重奏曲断章:アンダンテ・アパショナート
Disc 02
・弦楽四重奏曲第2番変ロ長調 B.17
・2つのワルツ 作品54 B.105 第1番 作品54 第1番 B.101
・2つのワルツ 作品54 B.105 第1番 作品54 第4番 B.101
・弦楽四重奏曲断片ヘ長調 B.120
Disc 03
・弦楽四重奏曲第3番ニ長調 B.18
Disc 04
・弦楽四重奏曲第4番ホ短調 B.19
・弦楽四重奏曲第5番ヘ短調 作品9 B.37
Disc 05
・弦楽四重奏曲第6番イ短調 作品12 B.40
・弦楽四重奏曲第7番イ短調 作品16 B.45
Disc 06
・弦楽四重奏曲第8番ホ長調 作品80 B.57
・弦楽四重奏曲第9番ニ短調 作品34 B.75
Disc 07
・弦楽四重奏曲第10番変ホ長調 作品51 B.92
・弦楽四重奏曲第11番ハ長調 作品61 B.121
Disc 08
・弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 作品96 B.179《アメリカ》
・弦楽四重奏曲第13番ト長調 作品106 B.192
Disc 09
・弦楽四重奏曲第14番変イ長調 作品105 B.193
・『糸杉』 B.152(全曲)

プラハ弦楽四重奏団
録音:1973年12月-1977年4月 プラハ

 

プラハ弦楽四重奏団は、その冠のとおり、チェコの演奏家たちによるカルテットです。

第1ヴァイオリンはブジェティスラフ・ノヴォトニー、第2ヴァイオリンはカレル・プジビル、ヴィオラはルボミール・マリー、チェロはヤン・シルツ。実はスメタナ四重奏団と同門で、チェコの高名な教授、ヨゼフ・ミツカの教えを受けています。

師の名に恥じない緊密なアンサンブルも見事ですが、ノヴォトニーの美しく滴るようなヴァイオリンの音色が素晴らしいですね。決してヴァイオリン主導型ではないのですが、大昔のカペーとかブッシュ弦楽四重奏団を想起させるような雰囲気を持っています。

先ほどスメタナ盤で称揚した「アメリカ」もさることながら、他の知られざる弦楽四重奏の傑作たちも彼らによって現代に蘇っています。

3番なんて、最初1枚のディスクに1曲しか入っていないので、ボックスの編成の都合かなと思ったら、なんと1時間弱の大曲!室内楽曲でこれだけの尺を持つ作品はなかなか珍しいと思います。しかし、曲は極めて叙情的で繊細、ハイドンの四重奏曲のような古典的な均整を保ち、アンサンブルの妙技を楽しむことができます。

大変ユニークなのは第13番。この曲が書かれた1895年は、ドヴォルザークが漸くアメリカからボヘミアに帰ってきた年。とにかく当時の彼の多忙さを象徴するがごとく、テンポやリズム、旋律が目まぐるしく変化するので、演奏がヘタだと聴き疲れします。しかし、プラハ四重奏団の音色美と言いますか、音楽の転換にもきっちり対応できる能力の高さで、この曲の本当の素晴らしさを堪能できます。

少々渋い曲ばかりになりますが、こういうセットを楽しむのも悪くないでしょう。録音も、グラモフォンがアナログ完成期の最も充実した時期に製作したものですから、非常に優れたものです。ぜひ、お楽しみください。

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