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現代とはスタイルの異なるメンゲルベルクの名盤
このボックス。マタイ受難曲以外にも古典派やロマン派の名曲がたくさん収録されています。
ベートーヴェンの交響曲全集は嬉しいですね。かつては、これだけの名演奏もなかなか入手することが難しい状況にありました。
一聴してみればすぐにわかることですが、とにかくテンポが自由。でも、チェリビダッケのように遅い一辺倒というわけではなく、早いところは一気に加速して畳み込んだりします。「第7交響曲」の終楽章なんかがそうですが、有名なカルロス・クライバーの演奏の勢いにも匹敵します。
また「第9交響曲」の第4楽章、巨匠は終結部のところでありえないようなリタルダント(それこそ一音一音強調して、見栄を切るような感じ)をかけるので、最近の演奏しか聴いたことがない方はびっくりしてしまうかもしれません。こういうユニークな処理がたくさんあって、第3楽章のポルタメントを多用した弦楽器の歌わせ方など、まさにメンゲルベルクの面目躍如といったところです。
あとブラームスやフランクの交響曲あたりを聴いていると、このオケは何と素晴らしい音色なのだろう!と感服してしまいます。
よく、世界3大オーケストラとして、ベルリン・フィルとウィーン・フィルにコンセルトヘボウを加えるのはなぜだ?という意見を聞くことがあるのですが、少なくともこのメンゲルベルクのBOXを聴いて、そういうことを言う人は皆無でしょう。戦前のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団は、技術も音色も当時の世界一、二のレベルにあったと言っていいかもしれません。
まず、ブラームス。第1交響曲の有名な冒頭が、弦楽器も管楽器もこんなに美しく混ざり合って始まる例を他に知りません。オーボエやクラリネットもどうしてここまで生き生きと艶めかしい音を出せるのだろう!と思わず感心してしまいます。圧倒的なフィナーレに向かうまで実にドラマティックで、いろいろとメンゲルベルクらしい個性的な解釈も見られるのですが、正統派的なしっかりした解釈に聴こえるから不思議です。
フランクも、循環形式など特異な構造かつスタティックな雰囲気のため、それほど人気が高いとは言い難いのですが、メンゲルベルクが振ると、コンセルトヘボウの華やかな音色が際立ち、他の指揮者からは聴こえないような楽しさが湧き上がってきます。これはなかなか面白い演奏家と思います。
そして、このBOX最大の聴き物で、とっておきの名盤なのがマーラーの「第4交響曲」でしょう。メンゲルベルクってよくよく考えれば、19世紀から指揮者稼業に身を置いていて、マーラーやリヒャルト・シュトラウスから作品の献呈を受けたり、チャイコフスキーから演奏を称賛されるなど、歴史上の人物と同時代を生きた指揮者なんですね。
ここでの演奏も、アバドやハイティンクといった20世紀の名指揮者たちの定番ある演奏に比べると、テンポは動きますし、間の取り方も大胆です。ポルタメントも盛大です。でも、あらゆる仕掛けがここでは妥当性を有し、深い感動を呼び起こします。
他にも素晴らしい演奏がたくさん詰まっていますが、とにかくどれも面白く、刺激的です。そういう演奏を、モノラルとはいえ、わりと良好な音質で聴けるのは大変な幸運と言わざるを得ません。
なお、メンゲルベルクのBOXは、別レーベルからかなり大掛かりなものが出ています。将来的にご紹介しますが、かなり膨大な録音を集成しているため、ここでは写真のみにとどめておきます。