12月の試聴室 カラヤン ニューイヤー・コンサート1987

全世界が注目した圧倒的なコンサート

2018年、そして平成最後の師走の試聴室に、いったいどの録音を持ってこようか、私なりに大変迷ったのですが、新元号の世界が明るい未来を迎えられますよう、華やいだ演奏会の記録、1987年ニューイヤー・コンサートのCDを採り上げることにしました。

ご存知の方も多いと思いますが、この年の指揮者はカラヤン。

この名物コンサートは、戦前にクレメンス・クラウスによって創始され、その後長らく、コンサート・マスターのウイリー・ボスコフスキーが指揮者を務めました。ボスコフスキー勇退後は、ウィーン国立歌劇場の音楽監督、ロリン・マゼールがしっかり引き継ぎ、87年からはいよいよ、綺羅星のようなスターが入れ替わりに登壇するようになります。

その先陣を切ったのが、80歳を目前にした当時の世界最高峰の指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンだったわけです。

しかし、みどころはそれだけではありません。何と、ニューイヤーの歴史で初めて、ソリストがステージに立つことになったのです。曲は有名な「春の声」。歌い手はキャスリーン・バトル。

あのカラヤンと歌姫バトルがニューイヤーの舞台に立つというのですから、当時としては最大級のビッグニュースです。コンサート前夜から異様な盛り上がりとなり、全世界衛星生中継、そしてCDリリースまで決定しました。まさにお祭り騒ぎです。

しかし、当のカラヤンは手兵・ベルリン・フィルハーモニーとの関係が悪化し、精神的にひどく参っている状況で、決して栄耀栄華に酔い痴れているわけではありませんでした。そこで、かつて追い出された因縁の街・ウィーンに再びシフトチェンジし、一切の煩わしさから抜け出そうという目論見が、このニューイヤー初登場にはあったと噂されています。

ただ、そういう黒い推測を吹き飛ばすように、このニューイヤーは歴史に残る素晴らしい出来栄えとなり、21世紀を迎え、30年以上が経過した今日でも、ベストオブニューイヤーとして多くの音楽ファンから聴かれ続けているのです。

【演奏曲目】

ヨハン・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「ジプシー男爵」序曲
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」 Op. 235
ヨハン・シュトラウスⅡ世:アンネン・ポルカOp. 117
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「うわごと」Op. 212
ヨハン・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」序曲
ヨハン・シュトラウスⅠ世:アンネン・ポルカOp. 137
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ポルカ「観光列車」Op. 281
ヨハン・シュトラウスⅡ世:皇帝円舞曲Op. 437
ヨハン・シュトラウスⅡ世&ヨーゼフ・シュトラウス:ピツィカート・ポルカ
ヨハン・シュトラウスⅡ世:無窮動Op. 257
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ポルカ「雷鳴と雷光」Op. 324
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ワルツ「春の声」Op. 410
ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ 「憂いもなく」Op. 271
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ワルツ「美しく青きドナウ」Op. 314
ヨハン・シュトラウスⅠ世:ラデツキー行進曲Op.228

ソプラノ独唱:キャスリーン・バトル
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

実際の演奏曲目は上記のとおりであり、その通りに収録・発売したのがレーザーディスクとDVDです。ただし、カラヤンが当日行った感動的なスピーチはカットされています(当時の舞台上のゴタゴタとか、カラヤンの映像制作ポリシーの都合でカットされたのでは?と言われています)。

映像からは、昨今のニューイヤーからは感じ取りにくい、聴衆と一体となった会場の雰囲気が伝わってきます(「ラデツキー行進曲」で赤ら顔のおじさんがとても楽しそうに拍手しているのが、親近感一杯で笑ってしまいます)。逆に、楽員は非常に緊張した面持ちで、まるでベートーヴェンやブラームスを演奏しているような真剣さ!

私はまず皆さまには、映像による1987年のニューイヤーから鑑賞して頂きたいと思います。

 

1. ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇『こうもり』序曲
2. ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ『天体の音楽』 op.235
3. ヨハン・シュトラウス2世:アンネン・ポルカ op.117
4. ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ『うわごと』 op.212
5. ヨハン・シュトラウス2世:ポルカ『観光列車』 op.281
6. ヨハン・シュトラウス2世&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ
7. ヨハン・シュトラウス1世:アンネン・ポルカ op.137
8. ヨハン・シュトラウス2世:ポルカ『雷鳴と電光』 op.324
9. ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ『春の声』 op.410
10. ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ『憂いもなく』 op.271
11. ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ『美しく青きドナウ』 op.314
12. ヨハン・シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

ソプラノ独唱:キャスリーン・バトル
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1987年1月1日 ウィーン、ムジークフェラインザール

しかし、カラヤンの情念に満ちた音楽づくり、ウィーン・フィルの空前絶後のサウンドを愉しむには、CDをじっくり聴いて頂くのに限ります。

先述の映像を参考にすれば、当日は対抗配置。コンマスはキュッヒル、トップサイドにヒンク。チェロにはバルトロメイ氏とシャイヴァイン氏の姿も見えます。いわゆるカラヤンとは気心の知れたスター・プレイヤーぞろいで、これぞウィーン・フィルというような独特の郷愁に満ちた音色、艶めかしさ、ウィーン訛りを存分に聴きとることができます。

「こうもり」序曲の悠然たるテンポ。89年のカルロス・クライバーとの比較も面白いですが、スリリングな音運びを避け、歌劇のシーンやウィーン特有のリズムをしっかり再現しながら、カラヤンらしい語り口のうまい演奏を展開しています。それにしてもウィーン・フィルのヴァイオリン群の美しさ、ヴィオラ・チェロ・コントラバスの鳴りの豊かさには身震いがします。

「天体の音楽」の繊細な美しさを何と讃えたらよいのでしょう!こちらもカルロス・クライバーが89年に取り組んでいますが、カラヤンとはアーティキュレーションがかなり異なります。例えば第4ワルツ後半の大きく盛り上がるフレーズの反復ですが、クライバーは1回目を急速にf→pに萎ませて、潜めるように演奏。ところが2回目、そこから一気にクレシェンドをかけてffくらいで駆け抜けるのです。直前のテンポ・ルバート、休止の使い方など、もはや天才の閃きと言って良いでしょう(1回目に入る際のヘッツェルの身体の動きも注目です)。

ところがカラヤンはそんなことはしません。第4ワルツ前半からドラムを軍隊風に叩かせて後半1回目に入り、fのまま華麗に歌わせます。そして、2回目はクライバーと逆。デクレシェンドさせたりはしないのですが、やや大人しめに次の第5ワルツにつないでいくのです。なぜかな、と思っていたら、第5ワルツ後半に大きな盛り上がりが出現したので、さすがカラヤン!と思わず唸ってしまいました。

このコンサート最大の聴きものの「春の声」もすばらしい。バトルの声は小鳥がさえずるような、まさに奇跡の美声。そして、それに寄り添うように出し入れするウィーン・フィルの生き生きとしたサウンドはまるで室内楽のようです。クライマックスのフルートとの掛け合いの妙は、特筆すべきでしょう。

他には「うわごと」、「憂いもなく」が素敵です。前者はカラヤンが若い頃から非常に得意としていた曲であり、デュナーミクの変幻自在さ、郷愁に満ちた黄昏の響き、説得力。どこをとっても非の打ちどころがありません。そして後者は短い曲ですが、たたみかけるような勢いが爽快で、こうした曲にも手を抜かないカラヤンの職人ぶりには感心します。

もちろん、「美しく青きドナウ」や弾むようなポルカも聴きごたえ十分で、クライバー盤とともにいつまでも輝きを失わないニューイヤー全盛期の記録として、このディスクは永遠に語り継がれていくでしょう。

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