バーンスタイン モーツァルト 後期交響曲集

名曲喫茶に響いた至高のモーツァルト

いつも私の拙ブログを読んで頂いてありがとうございます。
ところで皆様、今年の連休(執筆時 2017年のゴールデンウィーク中)はいかがお過ごしでいらっしゃいましたか?

私はほんの短い滞在期間でしたが東京都内を散策し、太宰治や森鴎外の記念館で文豪たちの偉大な業績を振り返ってきたところです。
鴎外の生々しいデスマスクや温かみを感じる手紙の数々、「スウプ」の独特の表記があまりに印象的だった太宰の「斜陽」の生原稿。
今回の文学散歩はかねてからの念願でもありまして、東京にはこれほど素晴らしいものが眠っていたのか、と改めて感嘆したものです。
ところがあまりに文豪に夢中になり、いつもなら渋谷の名曲喫茶「ライオン」に立ち寄る習慣が、今回はかないませんでした。残念!

名曲喫茶は、聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれませんが、とりあえずは喫茶店です。しかし、普通の形態ではなくて、たいがい店の中央にとてつもなく高価なオーディオシステムと巨大なスピーカーが組んであり、ものすごい数のLPレコードやCDがラックに並んでいます。
お店に入るとまず私語は厳禁。物音もできるだけ立てないようにしながら、じっとスピーカーから流れる音楽に耳を傾けます。
これだけだとあまりに敷居が高すぎて、窮屈そうだからまっぴらごめんという方もおられるでしょうが、それでは早計。
まず、名曲喫茶の珈琲やケーキというのがこれまた美味しくて、ライオンではコーヒーフロートやアイスレモンティーが私のお気に入り。
そしてアンティークな建物、机、椅子。どことなく漂う大正ロマンな雰囲気。束の間の休息に読書をする方、カップを傾ける人、眠る人……。

流れてくる音楽も素晴らしい。すごいシステムですから、CDでもずいぶん聴きごたえがするのですが、やはり往年のLPレコード。盤面に針をそっと落とすと、どすっという音、溝をトレースするサーッという音、そしてプチパチノイズ。そのあと、何とも温かみのあるヴァイオリンやピアノの音が耳に届くわけです。レコードの音響特性もありますが、やはりしっかり作り込まれたアナログの音というのはいいですね。

私のお気に入りの名曲喫茶がもう一軒、京都にあります。
京阪電車の京都側の終着駅、出町柳駅。叡山鉄道鞍馬行きの乗り場がある側に名曲喫茶「柳月堂」が建っています。

【京都出町柳の名曲喫茶 柳月堂さん ~食べログ様より転載~】
1953年開業。1階は地元でも有名なパン屋さんで、私はそこでよくメロンパンを買います。喫茶を利用する場合、袋の開封音も厳禁なので、あらかじめ下で封を切っておいてもらいます。そしていざ上の階へ。

上がると、受付のきれいなお姉さんにチャージ料を払い、中へ。この方はどうやらオーナーのお嬢さんらしく、注文を取った後、かけてほしい曲のリクエストも聞いて行かれます。私は、レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による、モーツァルトの交響曲第39番変ホ長調K.543をお願いしました。

澄み切った青空をバックに惚れ惚れとするほど均整の取れた彫像があしらわれたジャケット。そして流れてくる音楽の何と柔らかい響きだこと!第1楽章で主部に入る直前の3音の優しさに満ちた、沈む感じの響きは筆舌に尽くしがたかった!
第2楽章から第3楽章にかけてのウィーン・フィルハーモニーと弦と管の音色の美しさも喩えようがありません。CDですとかなり切れ味鋭く聴こえるのですが、LPだとこんなにふわーっと暖かな空気が覆うように聴こえるものかと感心しました。
今でも私は、京都に行く際はなんだかんだ理由を付けて、この「響き」を求めて柳月堂に参ろうと思います(笑)。

 

バーンスタインのモーツァルトの心地よさ

しかし、毎回柳月堂に行くわけにはいかないので、ある程度、自宅でこの響きを疑似体験できるよう努力しています。
ただ、やはり自宅のシステムでは、しかもCDではなかなかあの柔らかさは出てこないですね。これは仕方ありません。
それでも、バーンスタインの作り出すモーツァルトは、オーディオのメリットを差し引いても、非常に素晴らしい演奏です。彼がウィーン・フィルとともに収録したモーツァルトは以下のBOXにまとめて収められています。


バーンスタイン モーツァルト 後期交響曲集
Disc 01
・交響曲第25番ト短調 K.183
・交響曲第29番イ長調 K.201
・交響曲第38番ニ長調 K.504『プラハ』
Disc 02
・交響曲第35番ニ長調 K.385『ハフナー』
・交響曲第36番ハ長調 K.425『リンツ』
・交響曲第40番ト短調 K.550
Disc 03
・交響曲第39番変ホ長調 K.543
・交響曲第41番ハ長調 K.551『ジュピター』

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
レナード・バーンスタイン(指揮)
録音:1984-88年(デジタル)

 

有名な「ト短調K.550」は、ブルーノ・ワルター以来のゆったり優美系の演奏ですね。第2楽章のフルートやクラリネットがあまりに美しく、第3楽章のトリオはスラーのように弾かせるのが印象的。
第41番ハ長調 K.551『ジュピター』もさすがバーンスタインという祝典的な壮麗さ。生前の彼の喜びながら颯爽と振る様子が目に浮かぶようです。
フィナーレの対位法とフーガが見事に一体化して進むところはてきぱきとこなしますが、ベームのように一部の隙も作らずに理詰めで進めるわけでなく、遥かにエネルギッシュな演奏です。
「小ト短調」、29番、「ハフナー」、「リンツ」、「プラハ」も、ウィーン・フィルの濃密なアンサンブルを解放し、きわめて明快な音楽を描き出していて、バーンスタインが完全にこれらの音楽をモノにしていることが分かります。
日曜日の午後の昼下がり、コーヒーを傾けながらこのレニーのモーツァルトを聴くというのは実にぜいたくな時間ですね。

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