マリア・ジョアン・ピリス DG室内楽録音全集(2)

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室内楽の愉悦 フランク、ドビュッシー、ラヴェル

前頁でベートーヴェンとブラームスの素晴らしいソナタ演奏について書きましたが、後半はその他の演奏について。

まずモーツァルトのソナタ演奏ですが、これがまた素晴らしい。モーツァルトのソナタなら、同じフランコ=ベルギー派の大先輩、グリュミオーがハスキルと組んで収録した天下の名盤がありますが、デュメイも決して負けてはいない。

そもそも、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはピアノとヴァイオリンが対等の立場で渡り合うもの(だって、for piano and violinですもの)。名手ピリスはデュメイのキューやテンポを巧みにコントロールしながら、翳りのある音色でモーツァルトの一見単純なスコアから深い情感を引き出しています。そんなピアノに対し、デュメイは微妙なニュアンスを付けながら明晰に良く歌い、若々しさいっぱいに弾いていきます。渡り合うというより、お互いのモーツァルトのソナタに対する解釈を示しながら、見事なアンサンブルを形成している、と表現すればよいでしょう。

さて、次はいよいよ本命。このセットの白眉というべき、デュメイが得意とするフランスのヴァイオリンの傑作ばかりを集めたCD。

ドビュッシーのソナタは、楽想が目まぐるしく転換し、リズムも激しく動きます。作曲者名を伏せると、バルトークの曲ではないか?と勘違いしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。デュメイは、この難曲を破綻なく弾きこなし、切れ味の鋭い音色で聴き手を唸らせます。一方、ピリスはデュメイとぴったり呼吸を合わせ、不思議なユニゾンを形成する箇所、ピッツィカートに合わせてリズムを刻む個所など、様々な効果的な仕掛けをより強調して分かりやすく弾いていきます。だからと言って激しい演奏ではなく、知的に淡々と弾いていくので、よりドビュッシーの音楽そのものが楽しめます。

フランクも良いですね。この曲は冒頭の属九の和音による開始、ヴァイオリンの支配から解放されてピアノが勢いよく出て来るところが非常に印象的なのですが、ここの表現、デュメイとピリスは図抜けて素晴らしいです。最終楽章の入りも穏やかに力むことなく歌われます。さすが最新のデジタル録音なだけに、部屋いっぱいにヴァイオリンが響きわたる様が克明にとらえられていて、聴いていて気持ちよくなります。また、ピリスのピアノがこれまた芸が細かくて、強いffでびっくりさせたかと思うと、その後は静かに淡々とヴァイオリンに合わせ続け、時折り煌めくように美しい音色を引っ張り出したりして、本当にうまいなあと思わせます。

このボックス、他にもマイナーなグリーグのソナタや、モーツァルトの三重奏曲など、室内楽の愉悦を堪能できる曲がたくさん収められていて、本当に楽しいです。何だか、オーギュスタン・デュメイのBOXのようにも思えますが、逆に言うと、これまで世評が高かったディスクの数々をまとめて手に入れられたので、満足しました。皆様にもぜひお勧めしたいBOXです。

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