モーツァルト 4大オペラ集

 

このボックスはリリースされた当初、大きな驚きと喜びを以て迎えられました。
発売元は、ドイツのメンブランという会社。
メンブラン社は、主に著作権切れの音源を集めて10枚組のセットにし、円高の頃などは1,000円~2,000円という信じられない価格で販売するという、
まことに21世紀らしいビジネスモデルで名を馳せた会社です。
現在でもタワーレコードさんやHMVさんの店頭でワゴンに積まれた10枚組のセットを目にされる方は少なくないと思います。

私もドビュッシー・ボックス、ラヴェル・ボックス、ミケランジェリ・ボックスを愛聴していますが、廉価盤と侮るなかれ、優れた音質ですし、入手困難の録音も数多く含んでいます。
このモーツァルト・ボックスもそう。クラシック音楽界のまさに黄金期というべき1950年代、それこそ各レーベルが社運をかけて製作した豪華な録音たちを原盤としています。

・歌劇『コシ・ファン・トゥッテ』全曲
フィオルディリージ:リーザ・デラ・カーザ(S)
ドラベッラ:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms)
グリエルモ:エーリヒ・クンツ(Br)
フェランド:アントン・デルモータ(T)
ドン・アルフォンソ:パウル・シェフラー(Bs)
ウィーン国立歌劇場合唱団

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
カール・ベーム(指揮)
録音:1955年[ステレオ]

・歌劇『フィガロの結婚』全曲
フィガロ:チェーザレ・シエピ(Bs)
アルマヴィーヴァ伯爵:アルフレード・ペル(Br)
伯爵夫人:リーザ・デラ・カーザ(S)
スザンナ:ヒルデ・ギューデン(S)
ケルビーノ:スザンヌ・ダンコ(S)
マルチェリーナ:ヒルデ・レッスル=マイダン(Ms)
バルトロ:フェルナンド・コレナ(Bs)
ドン・バジリオ:マーレイ・ディッキー(T)
ドン・クルツィオ:フーゴ・マイヤー・ヴェルフィンク(T)
バルバリーナ:アニー・フェルバーマイヤー(S)
アントニオ:ハラルト・プレーグルヘフ(Bs)
少女1:ショウジョスザンヌ・ダンコ(S)
少女2:アニー・フェルバーマイヤー(S)
ウィーン国立歌劇場合唱団

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
エーリヒ・クライバー(指揮)
録音:1955年6月、ウィーン[ステレオ]

・ 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』全曲
ドン・ジョヴァンニ:チェーザレ・シエピ(Bs)
騎士長:クルト・ベーメ(Bs)
ドンナ・アンナ:シュザンヌ・ダンコ(S)
ドンナ・エルヴィーラ:リーザ・デラ・カーザ(S)
ドン・オッターヴィオ:アントン・デルモータ(T)
レポレッロ:フェルナンド・コレナ(Bs)
ツェルリーナ:ヒルデ・ギューデン(S)
マゼット:ヴァルター・ベリー(Bs)
ウィーン国立歌劇場合唱団

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ヨーゼフ・クリップス(指揮)
録音:1955年6月 ウィーン、レドゥーテンザール[ステレオ]

・歌劇『魔笛』全曲
タミーノ:エルンスト・ヘフリガー(T)
ザラストロ:ヨーゼフ・グラインドル(Bs)
夜の女王:リタ・シュトライヒ(S)
パミーナ:マリア・シュターダー(S)
パパゲーノ:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)
パパゲーナ:リザ・オットー(S)
モノスタトス:マルティン・ヴァンティン(T)
弁者:キム・ボルイ(Bs)、他
ベルリンRIAS室内合唱団

ベルリンRIAS交響楽団
フェレンツ・フリッチャイ(指揮)
録音:1954年[モノラル]

 

まずはベームの「コジ・ファン・トゥッテ」。
かつて、「女はみんなこうしたもの」という翻訳で知られた、男女のちょっと危険な恋愛劇。
背徳的なストーリーながら、真面目一徹の職人ベームがこのオペラをなんと生涯3度も録音、これはその最初のものであり、オーケストラは天下のウィーン・フィルです。
序曲からとても美しいアンサンブルで、木管のうまさは特筆もの。第1幕に入るやいなや、飛び跳ねるような弦楽器の動きが本当に素晴らしい!

歌手陣も豪華。
フィオルディリージには可憐な歌姫、リーザ・デラ・カーザ。
ドラベッラには実力派の名歌手、クリスタ・ルートヴィヒ。
グリエルモには往年のウィーンの大スター、エーリヒ・クンツ、
フェランドには多くのオペラの名盤で後世に名を遺したアントン・デルモータ。
なおコジには、耳のご馳走ともいうべき、様々な組み合わせによる重唱が用意されていますが、上記の4人をはじめとするベーム・チームの歌いっぷりは圧巻で、終幕まで粗筋のことさえ忘れ、モーツァルトの音楽の美しさに浸ることができます。

さて、続いてはおなじみ「フィガロの結婚」。
カルロスのお父さん、エーリッヒ・クライバーがウィーン・フィルを率いて収録しています。
なお、このディスクは、モーツァルト生誕200年を記念したものであり、レーベルはデッカ。
序曲から弾むようなテンポと、切れ味の良い弦のフレージングがカルロスを彷彿とさせ、父クライバーがどれだけすごい指揮者であったか、一聴して分かる名盤です。
さらに、シエピ、ペル、デラ・カーザ、ギューデン、ダンコ、レッスル=マイダン、コレナ…。
綺羅星のような歌手たちが花を添え、贅沢極まりない歌唱を展開していきます。
蠱惑的ともいうべきウィーン・フィルの音色の零れるような美しさも素晴らしいの一言で、まさに時間が経つのも忘れてしまう、そんな圧倒的なディスクと言っていいでしょう。

次の「ドン・ジョヴァンニ」については、もはやあれこれ語る必要もないでしょう。
世紀の当たり役、シエピが演じるドン・ジョバンニの色気、威風、多面性、そして声の逞しさ!
それを支えるコレナのレポレロの何と堂々たる存在感!
地獄落ちでシエピと互角に張り合う騎士長のベーメの演技力も素晴らしく、さらにツェルリーナがギューデン、マゼットがベリーというものすごい贅沢さです。
この大歌手たちをまとめるクリップスの手堅いながらオケの美質を最大限に引き出した統率力も、さすが戦後の混乱期のヨーロッパの楽団を支えただけの実力、と唸らせます。
もうどこをとっても不滅の名盤に恥じない仕上がりと言って良いでしょう、録音も優秀。

最後は「魔笛」。
ハンガリー生まれの往年の名指揮者、フィレンツェ・フリッチャイが遺した超ど級の名盤です。
オケはベルリン放送交響楽団でウィーン・フィルの魅惑はありませんが、非常にダイナミック。
それにしてもフルート奏者は誰でしょう?音色といいテクニックといい、凄いレベルです。
フィッシャー・ディースカウのパパゲーノとリサ・オットーのパパゲーナの二重唱なんて、あまりに攻撃的なアッチェレランドで笑ってしまいます。なんとユニークな歌唱でしょうか!
そして、このディスクの最大の聴き物、タミーノを演じるヘフリガーとザラストロを演じるグラインドル。
ヘフリガーの若々しくて品格に満ちた一途な歌唱は、まさに王子タミーノそのものの居住まい。
また、バイロイトの常連であり、グルネマンツやマルケ王で鳴らしたグラインドルの威厳もすごい。
音質も、この盤だけモノラルですが、鑑賞には全く問題ありません。

全4作、夢のような時間を過ごせること請け合いです、見かけられたら即ご購入を。

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