ベーム DG交響曲全集 1

オーストリアの名指揮者、カール・ベーム(1894年 – 1981年)といえば、1980年代くらいまではカラヤンと並び称される偉大な巨匠とされ、かつわが国で5本の指に入るくらいの人気を誇るスター指揮者でした。
しかし、時代の変遷、特にベームが得意としたハイドンやモーツァルトの演奏様式が変化(ピリオド・アプローチの台頭)したあたりから、すでに故人でもあった彼の名声は、クラシックCD市場のメインステージから外れていったような気がします。
以前なら、国内盤のいわゆる「ベストクラシック100」とか銘打たれたシリーズにベームのCDが7~8枚入っていたものですが、いまやバーンスタインやアバド、アーノンクールらにその座を奪われています。これも時代の宿命でしょうか。

いやいや、それでもまだベームの人気は不滅だよ!と仰る方もいるかもしれません。確かにその通りです。
最近でもベームのCDは、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスのものを中心に根強く売れ続けています。
ただ、以前のベーム人気はそんなものじゃなくて、最近の若い方たちが想像する以上にすごかったんです。

彼が1975年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を率いて来日したコンサートの映像が残っていますが、このコンサート、あまりに前評判が高すぎて、入場できるのはハガキの当選者のみ、という形がとられました。そして、本番は鳥肌が立つほど燃え上がった凄演が繰り広げられ、観客はスタンディングオベーション、拍手はいつまでも鳴りやまなず、興奮した客がステージ前に詰め寄りベームが恐怖した、などという逸話も残っています。

そんなベーム全盛の時代、ドイツグラモフォンは日本向けに数多くのレコードをリリースしています。ご存じのとおり、グラモフォンはカラヤンを抱えており、「ライヴァル・ベーム」の存在感を煽ることで、他のレコード会社に圧倒的な差をつけていましたが、ここにさらに、CBSの看板であったバーンスタインを加えるわけですから、恐るべき戦略です。

それはともかく、グラモフォンのバックアップの下、ベームはドイツ・オーストリアの大音楽家たちの交響曲全集を次々に製作していきます。今どきの指揮者にも全集づくりにチャレンジする人はいますが、ベームの凄いところは、モーツァルトの交響曲全集を収録したところにあります。
1960年代当時、モーツァルトの全集と言えば、旧楽譜によるラインスドルフ盤くらいだったしょう。そこに、天下のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いたベーム盤が現れ、大きな喝采を持って迎えられたのは当然のことです。
私がクラシックに興味を持った80年代でもこのベームの全集は、岩波の漱石全集ばりに威厳のある、天下の名盤でした。優雅なロココ調というよりも、ドイツ風なアクセントを持った無骨な佇まいで、フルトヴェングラー時代の古参とカラヤンに鍛えられた新しい時代の奏者たちが揃ったオーケストラの名手たちが醸し出す響きは、今では望めない華やかさに満ちています。
後期交響曲、例えば「ハフナー」や「ジュピター」のどっしりしたサウンドもいいですが、少年アマデウスの書いた初期の佳曲たちの実に立派に演奏は、軽やかなコープマンやピノックあたりの秀演とは別の曲のように聴こえます。

モーツァルト:交響曲第41番ハ長調 K.551『ジュピター』
カール・ベーム(指揮) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
パブリックドメイン音源

それにしても、今改めて聴き直して、ベームのモーツァルトの音楽的内容の充実ぶりは本当に素晴らしい。
そして、このモーツァルトに劣らずベームの十八番であったベートーヴェンの交響曲演奏も感動的な出来栄えです。
以前、私のこのブログでフルトヴェングラーの戦時中のベートーヴェンを絶賛したわけですが、ベームのはそれと全く対照的な演奏。平明で楽器が豊かにバランスよく鳴り、テンポは悠然とし、まことに堅牢な音楽づくりです。


例えば第7交響曲ですが、この曲を支える基本リズムが非常に明確に打ち出されている。フルトヴェングラーが意図的にフレーズを伸び縮みさせて劇的なテンポを取っている代わりに、このリズム感があまり前面に出てこなかったのに対し、ベームは明快で、非常に引き締まって聴こえます。それだから余計に、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の管楽器セクションの零れるような美しさが際立つ結果になっています。
英雄交響曲なんて、古今数多ある同曲の演奏の中でも最高の一つではないでしょうか?第1楽章は全てが安定し、金管が咆哮するところも適度に抑えられ、木管が煌めくように美しくさえずります。クレシェンドの興奮の高め方も実に巧い!第2楽章葬送行進曲も秀逸。これみよがしに悲劇性を強調するのではなく、(グラモフォンの録音スタッフが優秀なことも寄与していますが)声部が明晰であり、中間部以降が見事なフーガであることに気付かされます。終楽章はジョージ・セルほど畳みかけるアンサンブルではありませんが、変奏のたびに感興が高まっていくので、大変聴きごたえがあります。

2013年に発売された下記のボックスは、何とベームのモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスの交響曲全集を束ねた豪華なものです。久しぶりに本格的に交響曲の王道を聴きましたね。続きはまた書きます。

 

ベーム DG交響曲全集 2 に続く

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