ALTUS ウィーン・フィル・ライヴ録音集 01/01

戦後黄金期のウィーン・フィルと偉大な指揮者たちとの奇跡的な名演

【収録情報】
Disc 01
● シューベルト:交響曲第5番変ロ長調 D.485
● ブラームス:交響曲第4番ホ短調 op.98

指揮:カール・シューリヒト
録音:1965年4月24日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 02
● ブルックナー:交響曲第3番ニ短調

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ
録音:1960年2月14日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 03
● R.シュトラウス:交響詩『死と浄化』 op.24
● R.シュトラウス:アルプス交響曲 op.64

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ
録音:1958年11月9日(死と浄化)、1952年4月20日(アルプス)、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 04
● ベートーヴェン:交響曲第9番二短調 Op.125『合唱』

指揮:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)
ロゼッテ・アンダイ(アルト)
アントン・デルモータ(テノール)
パウル・シェフラー(バリトン)
ウィーン・ジンクアカデミー
録音:1953年5月30日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 05
● ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調 op.102
● ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 Op.56a

指揮:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
ヴィリー・ボスコフスキー(ヴァイオリン)
エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)
録音:1952年1月27日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 06
● ブラームス:交響曲第1番ハ短調 op.68

指揮:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
録音:1952年1月27日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 07
● ブルックナー:交響曲第9番ニ短調

指揮:カール・シューリヒト
録音:1955年3月17日、ウィーン・コンツェルトハウス大ホール

Disc 08
● シューベルト:交響曲第9番ハ長調 D.944『グレート』
● フランツ・シュミット:ハンガリー軽騎兵の変奏曲

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ
録音:1957年10月27日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 09
● ブルックナー:交響曲第8番ハ短調

指揮:カール・シューリヒト
録音:1963年12月7日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 10
● ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調 Op.55『英雄』
● マーラー:歌曲集『さすらう若者の歌』

指揮:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
アルフレート・ぺル(バリトン)
録音:1952年11月30日、ウィーン・ムジークフェラインザール

Disc 11
● ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調

指揮:カール・シューリヒト
録音:1963年2月24日、ウィーン・ムジークフェラインザール

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

※すべてモノーラル録音

 

1950年~60年代の黄金の時代を振り返る

昔のレコード雑誌に目を通すと、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の黄金時代は1950年代から1960年代であった、という記事をよく見ます。

個人的には前にも書きましたが、このオケの黄金期は、それまでのローカル色際立つ音色に卓越したテクニックが加わり、空前絶後のアンサンブルが完成した1980年代であったと思います。ベーム、カラヤン、バーンスタインと言った20世紀最高の指揮者たちが代わる代わる指揮台に立ち、また、若きアバドと様々な新しいレパートリーをものにしていった当時のウィーン・フィルは、まさに他を圧倒して光り輝いていました。

それに比べると、1950年代のアンサンブルはちょっと緩め。しかし、どこかノスタルジックで夕映えのような気品に満ちた優雅さがあり、それはそれでもう二度と聴くことのできない素晴らしい生きた文化遺産でした。

ただし、この時代が80年代より評価されるのには、もう一つ別の要因もあります。彼らとともにステージに上がっていたのが、神話時代の神々と言ってもよい怪物級の指揮者ばかりだったことです。

フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、ワルター、シューリヒト、ベーム、クレメンス・クラウス、エーリヒ・クライバー、モントゥー、セル、クレンペラー等々。彼らが代わる代わる登壇するウィーンでは毎晩、夢のようなコンサートが繰り広げられていました。

そうした素晴らしい瞬間を、いま私たちはALTUSの優れた復刻ボックスによって共有することができるのです。

 

圧倒的感動を呼び起こすフルトヴェングラーのブラームス

戦後、ウィーン・フィルと極めて密接な関係にあったのがフルトヴェングラーです。言うまでもなく彼はベルリン・フィルハーモニーの首席指揮者ですが、ナチス政権時代からこのオケと積極的に共演、戦後も良好な関係を保っていました。特に50年代はメジャーレーベル・EMIの戦略により、ベートーヴェンの交響曲全集、ワーグナーの「ニーベルングの指環」全曲録音がこのコンビで矢継ぎ早に計画されたほどです(どちらも1954年の指揮者没により未完)。

なお、両者はコンサートでも共演が多く、多くのライブ録音が遺されました。そのどれもが破格の名演と言って差し支えなく、このボックスに収められたベートーヴェンやブラームスの演奏も、ため息が出るような素晴らしさです。

ブラームスの第1交響曲は1952年1月27日、ウィーン・ムジークフェラインザールにおける有名な演奏。

剛毅でグイグイ押してくるベルリン・フィル盤(1952年2月10日の演奏)に比べると、しなやかでロマンティックな歌心に溢れており、管楽器の鄙びた音色にも素晴らしい魅力を感じることができます。フィナーレのコーダで大爆発するというスタイルではなく、終始優美で均整が取れているところに、フルトヴェングラー晩年の特徴がよくあらわれています。

そして、Disc 05のブラームスの「二重協奏曲」は、ボスコフスキー(ヴァイオリン)とブラベッツ(チェロ)の二大首席奏者を擁した名演で、曲がマイナーだから聴いたことがない、という方にはぜひ聴いて頂きたい一枚。

兎にも角にも冒頭からブラベッツのチェロが素晴らしい。カザルスのように野太く、切々とした響き。そこに美しくも哀感たっぷりのボスコフスキーのヴァイオリンが絡むそのドラマティックさ!この第1楽章はいつ聴いても心が震えます。

続く2楽章のノスタルジーも見事。さらに3楽章は他の奏者ならば、とかくおどろおどろしく演奏するところ、ブラベッツとボスコフスキーはまさにウィーン流という典雅でスタイリッシュな弾きっぷりで聴く者を魅了します。そして、こうした独奏者の見事な音楽をフルトヴェングラーが邪魔せず、しっかりサポートしつつ、時にブラームスのロマンティックで激情が迸るようなffの箇所では、気宇壮大な音楽を聴かせます。まさにがっぷり四つの名演と言って良いでしょう。

カップリングの「ハイドンの主題による変奏曲」は、ウィーン・フィルの魅力的なサウンドがリアルに捉えられていて、まるで当時の会場にいるよう、と言っても過言ではありません。ともあれ、フルトヴェングラーの1952年1月27日のオール・ブラームス・プログラムを令和の日本で堪能できるなんて、本当にありがたいボックスです。

次の会では、引き続きフルトヴェングラーとウィーン・フィルの組み合わせで。今度はベートーヴェンのシンフォニーなどを聴いていきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA