エリー・アメリング/バッハ・エディション

往年のバッハ指揮者 ミュンヒンガーの名盤が聴ける!

カール・ミュンヒンガー

こんな邪道な聴き方もあったもんではありませんが、このボックスはオランダの名歌手エリー・アメリング(1933年- )の素晴らしい声を堪能できるとともに、もはや忘れられてしまったと言って良い往年のバロック演奏の巨匠、カール・ミュンヒンガー(1915年 – 1990年)のバッハ声楽録音がまとめて聴けるファン垂涎のアイテムなのです。

Disc 01
J.S.バッハ:
1. カンタータ第199番『わが心は血の海に漂う』 BWV.199
2. カンタータ第51番『全地よ、神に向かいて歓呼せよ』 BWV.51

エリー・アメリング(ソプラノ)
ゲルノート・シュマルフス(オーボエ:1)
ユルゲン・クスマウル(ヴィオラ:1)
モーリス・アンドレ(トランペット:2)
ドイツ・バッハゾリステン
ヘルムート・ヴィンシャーマン(指揮)

録音:1969年9月、オランダ

Disc 02
1. カンタータ第32番『慕わしいイエス、私の願いよ』 BWV.32
2. カンタータ第57番『試練に耐うる人は幸いなり』 BWV.57

エリー・アメリング(ソプラノ)
ヘルマン・プライ(バリトン)
インゴ・ゴリツキ(オーボエ:1)
サシュコ・ガヴリーロフ(ヴァイオリン:1)
エルンスト・マイアー=シールニンク(ヴァイオリン:2)
ドイツ・バッハゾリステン
ヘルムート・ヴィンシャーマン(指揮)

録音:1970年3月、オランダ

Disc 03
1. カンタータ第140番『目覚めよとわれらに呼ばわる物見らの声』 BWV.140
2. カンタータ第80番『われらが神は堅き砦』 BWV.80

エリー・アメリング(ソプラノ)
リンダ・フィニー(コントラルト:1)
アルド・バルディン(テノール:1)
サミュエル・レイミー(バス:1)
ホセ=ルイス・ガルシア(ヴィオリーノ・ピッコロ:1)
ニール・ブラック(オーボエ)
ジェイムズ・ブラウ(オーボエ・ダ・カッチャ)
ロンドン・ヴォイセズ
イギリス室内管弦楽団
レイモンド・レッパード(指揮)

録音:1981年2月、ロンドン

Disc 04
1. カンタータ第84番『我はわが幸いに心満ちたり』 BWV.84
2. カンタータ第52番『悪しき世よ、わらは汝に頼まじ』 BWV.52
3. カンタータ第209番『悲しみを知らぬ者』 BWV.209

エリー・アメリング(ソプラノ)
ウィリアム・ベネット(フルート:3)
ロンドン・ヴォイセズ
イギリス室内管弦楽団
レイモンド・レッパード(指揮)

録音:1981年5月、ロンドン

Disc 05
1. カンタータ第130番『主なる神よ、われらこぞりて汝を頌め』 BWV.130
2. カンタータ第101番『主、まことの神よ、われらから取り去りたまえ』 BWV.101
3. カンタータ第67番『死人の中より甦りしイエス・キリストを覚えよ』 BWV.67

エリー・アメリング(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ヴェルナー・クレン(テノール)
トム・クラウゼ(バリトン)
アンドレ・ペパン(フルート:1)
ローザンヌ・プロ・アルテ合唱団
スイス・ロマンド管弦楽団
エルネスト・アンセルメ(指揮)

録音:1968年8月~9月、ジュネーヴ

Disc 06
1. カンタータ第10番『我が魂は主を崇め』 BWV.10
2. マニフィカト ニ長調 BWV.243

エリー・アメリング(ソプラノ)
ハンネッケ・ヴァン・ボルク(ソプラノ:2)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ヴェルナー・クレン(テノール)
トム・クラウセ(バリトン:2)
マリウス・リンツラー(バス:1)
ウィーン・アカデミー合唱団
シュトゥットガルト室内管弦楽団
カール・ミュンヒンガー(指揮)

録音:1968年5月、シュトゥットガルト

Disc 07
1. ミサ曲 ト短調 BWV.235
2. ミサ曲 ト長調 BWV.236

エリー・アメリング(ソプラノ)
ビルギット・フィニレ(コントラルト)
テオ・アルトマイアー(テノール)
ウィリアム・ライマー(バス)
ヘルフォート・ヴェストフェーリッシェ・カントライ
ドイツ・バッハゾリステン
ヘルムート・ヴィンシャーマン(指揮、オーボエ)

録音:1969年、オランダ

Disc 08-09
● ミサ曲 ロ短調 BWV.232

エリー・アメリング(ソプラノ)
イヴォンヌ・ミントン、ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ヴェルナー・クレン(テノール)
トム・クラウセ(バリトン)
ウィーン・ジングアカデミー
シュトゥットガルト室内管弦楽団
カール・ミュンヒンガー(指揮)

録音:1970年5月~6月、ウィーン

Disc 10-12
● マタイ受難曲 BWV.244

エリー・アメリング(ソプラノ)
ピーター・ピアーズ(テノール)
ヘルマン・プライ(バリトン)
マルガ・ヘフゲン(アルト)
フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)
トム・クラウセ(バリトン)
シュトゥットガルト・ヒムヌス少年合唱団
シュトゥットガルト室内管弦楽団
カール・ミュンヒンガー(指揮)

録音:1964年7月、シュトゥットガルト

Disc 13-14
● ヨハネ受難曲 BWV.245

エリー・アメリング(ソプラノ)
ユリア・ハマリ(アルト)
ヴェルナー・ホルヴェーク(テノール)
ヘルマン・プライ(バリトン)
ディーター・エレンベック(テノール)
ヴァルター・ベリー(バス・バリトン)
シュトゥットガルト・ヒムヌス少年合唱団
シュトゥットガルト室内管弦楽団
カール・ミュンヒンガー(指揮)

録音:1974年6月、7月、10月、シュトゥットガルト

Disc 15
● 復活祭オラトリオ BWV.249

エリー・アメリング(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ヴェルナー・クレン(テノール)
トム・クラウセ(バリトン)
ウィーン・アカデミー合唱団
シュトゥットガルト室内管弦楽団
カール・ミュンヒンガー(指揮)

録音:1968年5月、シュトゥットガルト

Disc 16-17
● クリスマス・オラトリオ BWV.248

エリー・アメリング(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ(コントラルト)
ピーター・ピアーズ(テノール)
トム・クラウセ(バリトン)
リューベック・カントライ
シュトゥットガルト室内管弦楽団
カール・ミュンヒンガー(指揮)

録音:1966年9月、シュトゥットガルト

Disc 18-20
● クリスマス・オラトリオ BWV.248

エリー・アメリング(ソプラノ)
ブリギッテ・ファスベンダー(アルト)
ホルスト・ラウベンタール(テノール)
ヘルマン・プライ(バリトン)
テルツ少年合唱団
バイエルン放送交響楽団&合唱団
オイゲン・ヨッフム(指揮)

録音:1972年10月、ミュンヘン

 

5大宗教曲が聴ける!ミュンヒンガー再評価

ヨハン・セバスティアン・バッハ

私がクラシック音楽に親しみ始めた1980年代。ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデルといったバロック音楽を聴きたければ、カール・リヒター、カール・ミュンヒンガー、ヘルムート・リリング、ジャン=フランソワ・パイヤール、レイモンド・レパード、 イ・ムジチ合奏団のレコードを買えば間違いない、という風潮でした。令和の若いクラシックファンなら、リヒターを除いて「?」という名前ばかりでしょう。

当時の日本では、ホグウッド、ブリュッヘン、アーノンクールと言ったピリオド楽器のパイオニアたちの評価は惨憺たるもので、何やら胡散臭い連中のように扱う評論家さえいました。まだまだ大オーケストラによる「マタイ」や「メサイア」がありがたがられる時代だったのです。

その一方で、本場ヨーロッパではすでに古楽演奏の潮流が支配的になりつつあり、特にオランダでアーノンクールやブリュッヘンが斬新な解釈で大成功を収めたことが、過去の巨匠たちをお払い箱にしてしまいます。今日では評価の高いカール・リヒターでさえ例外ではなく、彼の晩年は不遇でした。

カール・リヒター

ここで私が熱く紹介するミュンヒンガーも同様です。50年代から60年代にかけて、ミュンヒンガーは夥しい数の素晴らしい録音を遺しましたが、70年代以降は時代遅れと揶揄されるようになり、活躍の場をすっかり失っていました。時代の変化を恐れたのか、手兵のシュトゥットガルト室内管弦楽団を中規模オーケストラに改変したのも悪手となります。

そして失意のミュンヒンガーは1990年に亡くなりました。その後、リヒターはバロック演奏の巨人として再評価されていますが、ミュンヒンガーについては忘れられたままです。

それだけに、このボックスで彼のバッハがまとめて聴けるのは感謝しかありません。

手始めにDisc8と9の「ロ短調ミサ」を聴いてみてください。冒頭から合唱の一所懸命さにまず驚かされます。現在では、もっと縦の線がぴったり合って、清澄なハーモニーを聴かせるコーラスはたくさんいますし、ここでのウィーン・ジングアカデミーは少し荒っぽい感じにも聴こえますが、それでもひたむきな歌唱の凄絶さには心を打たれます。

そしてこのボックスの主役であるアメリングの可憐な歌声と正統派の歌いっぷりもまた、心洗われる名唱です。

彼女のメインレパートリーは歌曲であり、特に古楽に抜群の適性があると言われましたが、このバッハなどはその最良の仕事と言って良いでしょう。

続いて「マタイ」「ヨハネ」の両受難曲は、正統的かつ分かりやすいストレートさが魅力なのですが、やはりカール・リヒターの凄みに比べれば、第一等というわけにはいきません。しかし、ピーター・ピアーズ、ヘルマン・プライ、フリッツ・ヴンダーリヒを擁する歌手陣のみごとさは聴きごたえ十分です。

ただしミュンヒンガーの長所が最も生きるのは、「クリスマス・オラトリオ」や「復活祭オラトリオ」と言えないでしょうか。

こういう民衆の素朴な喜び、日々の敬虔な祈りを滲ませた音楽の方が、ミュンヒンガーのスタイルに合います。

なお、このボックスはアメリングがメインですので、「クリスマス・オラトリオ」はオイゲン・ヨッフム指揮による大変珍しいレコードも収められており、ミュンヒンガー盤との比較が可能です。

ヨッフム盤のオーケストラは名門バイエルン放送交響楽団。冒頭から重厚でありながら、躍動感も十分。ミュンヒンガーの軽やかさとは違い、ドイツの歴史と伝統と誇りを前に出したような演奏。でもそこが堪らなく良いのです。

歌手陣もおそるべき陣容、かつ第一独奏ヴァイオリンにルドルフ・ケッケルトの名前も見える豪華さです。この1枚を聴くだけでも、十分なボックスと言えるでしょう。

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